第七十話 直江とヒナと同人誌の楽園②
「ホクホク……」
と、会計から出てくるのはヒナだ。
直江はそんな彼女へと言う。
「最初からすごい買ったね……」
「ん……両手いっぱい。でも、お気に入りがあったから仕方ない」
「なら、よかったけど。ところでヒナ、他に行きたいところある?」
「ゲームセンター! 久しぶりに、お兄と一緒にゲーム……したい」
と、もじもじ言ってくるヒナ。
となれば、直江がすることは一つだ。
「荷物、持とうか?」
「ん……大丈夫。これはヒナのだし、お兄に迷惑かけられない」
と、首をふってくるヒナ。
やはりヒナ、いい子だ。
(何回も思うけど、これで性癖さえまともならば……)
などなど。
直江は一人考えたのち、再びヒナへと言う。
「迷惑なんかじゃないよ。ヒナより僕の方が力あるしさ――せっかく一緒に歩くなら、妹に頼れるところ見せたいしね」
「お兄、優しい……でも、お兄は何もしてくれなくても、充分かっこよくて頼りになる」
「はいはい、じゃあ荷物ちょうだい」
「ん……」
と、荷物を渡してくる。
直江はそれを受け取った後、ヒナと共に全年齢同人誌の店を出るのだった。
…………。
………………。
……………………。
時はあれから数分後。
場所はゲームセンターへと向かう道中。
「はぁ……はぁ……」
と、背後から聞こえてくるヒナの声。
同時、彼女の視線がジロジロと背中に感じられる。
嫌な予感がする。
(い、いや……きっと勘違いだ。ヒナがいくらヤバいとはいえ、いくらなんでもそんなわけない……そうだ、僕の思い過ごしだ)
と、直江は頑張ってヒナを無視しようとする。
しかし、背後から聞こえてくる彼女の声。
それはどんどん荒くなっていく。
やはり気になる。
一度そうなると、その気持ちはどんどん増していく。
「…………」
故に直江はついつい意識を傾けてしまう。
背後をついて歩くヒナへと。
すると――。
「お兄が……ヒナの、ヒナのオカズ……持ってる」
と、聞こえてくるヒナの声。
彼女は一人、更に言葉を続ける。
「ヒナが買った兄妹本……見られたらヒナ、終わっちゃう……なのに、それをお兄が持って……はぁ、はぁ」
「…………」
ダメだ。
やはり勘違いじゃなかった。
要するにヒナ。
自分のオカズを直江に持たせることにより、興奮しているに違いない。
ド変態だ。
だがしかし。
だからといって、直江にできることはない。
今ただ、一刻も早くゲームセンターへ向かうのみ。
直江はそんな事を考えたのち。
ヒナの荷物を持って歩を進めるのだった。
「お兄……お兄がオカズ……えへへ」
そんなヒナさんこと。
変質者を背後に引き連れながら。