第六十九話 直江とヒナと同人誌の楽園
時は学園を出てから数十分後。
場所はとある街――オタクグッズが勢ぞろいなこの場所。
現在。
直江とヒナは、そこのメイン通りを歩いていた。
「それで、ヒナはどのお店に行きたいの?」
「ヒナ……全年齢同人誌のお店に行きたい」
と、言ってくるのはヒナだ。
直江はそんな彼女へと言う。
「じゃあ、行くのはいつものあそこでいいの? 上にゲームセンターがあって、地下が本屋になってる――名前は忘れちゃったけど」
「ん……そこ」
「了解。じゃあ、行こうか?」
「お兄……今日は、ヒナに付き合ってくれて、ありがとう」
と、直江の腕に引っ付いて来るヒナ。
直江はそんな彼女へと言う。
「僕もたまには、ヒナと一緒に出掛けたいしね」
「ヒナ……そういうこと言われると、嬉しくて照れる」
「あはは……それにまぁ、僕も買いたい本があるしね。今日はコミックの
新刊発売日なんだ」
「だったらよかった……ヒナ、お兄が退屈しないか心配だったから」
きゅっと、直江の腕を握って来るヒナ。
改めて思うが、ヒナは本当にいい子だ。
(身内贔屓かもしれないけど、こんなに人の事を考えられる人なんて、そうそう居ないよね)
ヒナが妹でよかった。
直江はそんな事を考えた後、件の全年齢同人誌の店へと向かうのだった。
…………。
………………。
……………………。
さてさて。
現在、直江とヒナは件の全年齢同人誌の店へとやってきていた。
直江はコミックの新刊棚を物色。
ヒナはヒナで、全年齢同人誌コーナーを見ているに違いない。
「…………」
実は直江、先ほど嘘をついた。
直江がこの店に来た理由。
それはコミックの新刊を買うためだけではない。
もう一つあるのだ。
それすなわち――。
(今まで、ヒナが買っている全年齢同人誌とか、全く興味なかったけど)
直江はヒナに、男女としての恋愛感情を持たれている。
しかも、定期的にオカズとして利用されている。
(ヒナが買ってる同人誌の内容……気にならないわけがない)
そんなの知らない方がいいに決まっている。
そんなの調べるのはマナー違反だ。
わかっている。
けれど、直江は自分をどうしても抑えきれなかった。
「…………」
直江は息を殺し、ヒナが居るに違いないコーナーへと向かう。
そして、棚の端からそっとそのスペースを覗き込む。
するとそこに居たのは。
「…………」
ヒナさんだ。
頬をわずかに赤く染め、呼吸が荒い様子の彼女。
いったい、どんな同人誌のサンプルを読んでいるのか。
直江はゆっくり、ヒナに背中を向けつつカニ歩きで移動。
目指すは彼女の背後だ。
(よし。無事にポジションにつくことに成功した……あとは)
と、直江はチラリと背後を振り返る。
さぁ、ヒナが読んでいる同人誌とは――。
『監禁! ~獣な兄に弄ばれる妹~』
まぁあれだ。
わかってはいた。
わかってはいたが。
(ダメだ……やっぱり見ない方がよかった)
直江は猛烈な頭痛を感じ、その場を後にしようとする。
だがしかし、彼は偶然みてしまった。
ヒナの傍にある籠――そこ入っている同人誌を。
『ヤンデレ妹に監禁されました』
『真実の愛~兄妹で愛し合うのはダメですか?~』
『催眠妹~最悪な兄に騙されて~』
エトセトラエトセトラ
エトセトラエトセトラエトセトラ。
すごい!
想像以上ですね、ヒナさん!
(なんだかヒナ、想像以上にドロドロした感情を僕に向けている気がする……)
と、直江がそんな事を考えた。
まさにその時。
「お兄……ヒナ、待ってるのに」
と、聞こえてくるヒナの声。
直江は一瞬ドキリとするが、どうやら気がつかれた様子はない。
ヒナは独り言を言っているのだ。
「どうしてお兄……ヒナに手を出してくれないのかな」
と、再び呟くヒナ。
彼女はもじもじ、言葉を続ける。
「お兄に色々されたい……滅茶苦茶にしてほしい、のに……それに最近、お姉が言ってたやつ――監禁にも興味、ある」
おーい。
綾瀬さんやーい。
何教えてくれてるんですかー。
「お兄……お兄……好き、好き好き……お兄、好き」
もじもじ。
と、苦しそうな様子のヒナ。
変態だ。
ヒナはやはりどうしようもない性癖の持ち主だ。
このままここに居るのは危険だ。
(もし僕がここに居るのがバレたら……もしヒナが、僕に自分の感情を知られていると理解したなら……)
ヒナ。
確実になりふり構わなくなるに違いない。
となれば。
(触らぬ神に祟りなし)
その割には踏み込み過ぎた感ある。
だが、まだ遅くない。
直江はそんな事を考えたのち。
一人静かにコミック新刊コーナーに戻るのだった。
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