第六十三話 直江は虎穴に入ってみる②
時はあれからすぐ。
場所は――。
(まさか、また綾瀬の部屋に戻って来るとは……しかも、自分から)
今回は、前回の様に危険な目に合わない事を、祈るばかりだ。
などなど、直江がそんな事を考えていると。
「入口に立ってないで、早く入りなさいな」
と、言ってくる綾瀬。
彼女は直江へと言葉を続けてくる。
「直江が好きな飲み物、直江が好きなお菓子。この日のために、全部準備済みよ」
「僕、綾瀬に好きな飲み物とお菓子、教えたことあったけ?」
「直江、あんた何言ってるの? 愛している人の事は、事前にしっかり調べておく……それが妻の務めでしょう?」
「……な、なるほどね」
つまり、直江に内緒で調べたということか。
盗撮か盗聴か、どうせそんな手段を使ったに違いない。
まぁ――。
(ワンチャン、ヒナから漏れたってことも考えられるけどね)
最近のヒナと綾瀬は本当に仲がいい。
ファーストコンタクトから考えると、信じられないレベルだ。
この前など、夜に二人でチャットをしていた。
(いったい、何を話していたことやら)
と、直江は考えたのち。
部屋へ入りながら、綾瀬へと言う。
「えっと、それで僕はどこに座ればいいかな?」
「どこに座りたいのかしら?」
「……じゃあ、そこの勉強机で」
「直江」
ぽんぽん。
ぽんぽんぽん。
と現在、ソファーに座っている綾瀬さん。
彼女は自らの隣の席を叩いて来る。
まぁ、言いたいことはわかった。
直江はため息一つ、覚悟を決める。
そして、綾瀬の隣へと腰掛ける。
すると。
「な~おえ♪」
と、引っ付いて来る綾瀬さん。
彼女はそのまま、直江へと言葉を続けてくる。
「わたし、やっぱり直江が一番好き。世界で一番愛しているわ……あんたの温もりを感じると、そのことを実感できるの」
「あ、あはは……あ、ありがとう、ございます」
目が怖い。
綾瀬さんの目、どす黒く淀んで見える。
これを見ていると、どうしようもなく不安になる。
綾瀬、また直江に何かしかけてくるのではと。
だがしかし。
(こ、ここは信じよう――綾瀬は僕の大切な友達の一人なんだから)
というか、とりあえずこの空気を消そう。
綾瀬の意識を、直江から逸らすのだ。
「そ、それで綾瀬。今日は何をしたいのかな?」
「あぁ、そのこと。その答えは簡単よ」
と、にこにこ綾瀬。
彼女は直江と綾瀬――二人の前にあるテレビを指さし。
そのまま、直江へと言葉を続けてくるのだった。
「ゲームをしましょう」