第六十一話 魔境③
時は柚木がやってきてから数十分後。
場所は変わらずリビング。
現在。
柚木、綾瀬、クロの三人は対戦格闘ゲームで遊んでいる。
若干一名――柚木のキャラは、常に妙な動きしかしていないが。
(きっとあれ……わざとなんだろうな)
などと考えている間にも。
柚木キャラ、ステージの端から勝手に落下していく。
そしてその度に。
「な、なおえ~! 大変だ――あたしのキャラ、また落ちた! どうしよう……どうすればいいんだ!?」
と、直江に毎回報告してくる柚木。
以前ならば直江、いちいち柚木にアドバイスしていたのだが。
チラチラ。
チラチラチラ。
と、『今のドジっ娘具合どうですかね!?』と言わんばかりの柚木の視線。
それに晒されると、思わず無言になってしまう。
残りの綾瀬とクロはというと。
「っ……FPSならこんな事には!」
「油断しましたね! 私は勝利にはこだわる女なんですよ!」
と、接戦繰り広げながら順に言う綾瀬とクロ。
見ての通り、クロが優勢なのだが――。
「ま、負けられない……わたしがこんな……直江の前で他の女に負けるなんて……ない、ないないないないない絶対にない……そんなことは許されない許されない許されない許されない許されない」
と、呪文を唱え始める綾瀬。
彼女――もしこのままクロの優勢が続けば、クロに物理攻撃しかけそうで怖い。
要注意だ。
とまぁ、リビングはカオス。
なのだが。
「お兄……むにゃ」
と、聞こえてくるのはヒナの声。
現在、彼女は直江の膝枕でお眠中だ。
(きっと、沢山の人と遊んで疲れたんだろうな……にしても)
ヒナ、静かな時は本当に可愛らしいというか。
小動物のようで癒される。
なでなで。
なでなでなで。
「むにゃむにゃ……お兄ぃ」
と、猫の様に顔をこすこすしてくるヒナ。
きっとヒナは猫ヒナになったに違いない。
(はぁ……どうして僕の周りって、喋ると残念な人が多いんだろう)
クロは比較的まともだが。
綾瀬と柚木、そしてヒナがまずい。
特に綾瀬だ。
だがしかし。
これは前にも考えた事だが。
(慣れたというか、なんだかんだ平和を感じちゃってる僕も居るんだよね――怖い事に)
こうして。
直江家での一日は過ぎていくのだった。