第六十話 魔境②
「な、直江さん! た、助けて――助けてください!」
と、直江に飛びついて来るのはクロだ。
彼女はガクガクと震えながら、彼へと言葉を続けてくる。
「お、恐ろしいです……恐ろしい物を見てしまいました……う、うぅ」
「えっと、大丈夫? 僕がいない間に、何かあった?」
「お、おかしいです……あの人達はおかしいです」
と、ぷるぷるガクガク。
怯えた様子のクロ。
いったい、クロはどうしたというのか。
直江はそれをハッキリさせるために、リビングへと一歩を踏み出す。
すると。
…………。
………………。
……………………。
「あら、直江。おかえりなさい」
「お兄、おかえり……お客さん誰だった?」
と、ソファーに座りながら言ってくるのは、綾瀬とヒナだ。
直江はそれを見たのち、未だ彼へ引っ付いているクロへと言う。
「えっと……特に変わった様子はないけど?」
「ほ、本当です! さっきまで、この二人はやばかったんです! 信じてください……直江さん!」
「二人が何かしていたってこと?」
「していましたよ! それはもうやばいことを!」
と、ジタバタ言ってくるクロ。
彼女はそのまま、直江へと言葉を続けてくる。
「この二人――さっき、どこからか取り出したカメラをテレビに接続……直江さんの全裸入浴シーンを鑑賞し始めたんですよ!」
「…………」
「えぇ、えぇそうでしょう! 直江さんもショックですよね!? 私もですよ! 部長はともかく、まさかヒナさんまで……っ、これじゃあ変態じゃないですか!」
なるほど。
直江は全て理解した。
簡潔に言うとこういうことに違いない。
クロは綾瀬とヒナの闇に触れてしまった。
やばいやばい。
と、クロの精神崩壊するのも当然だ。
などと、直江が考えていると。
「クロ……何言ってるの?」
と、聞こえてくるのはヒナの声だ。
ヒナはクロへとジトっと言葉を続ける。
「ヒナ、そんなことしてない……変な妄想を一人で言い散らすクロ……変態」
「なっ!? そ、そんな事言っても無駄ですよ! 私は確かに――」
「確か――とは、どういうことかしら?」
と、二人の会話に入って来るのは綾瀬。
彼女は不敵な様子の笑みを浮かべ、クロへと言葉を続ける。
「わたしもそんな事をしていた覚えはないわね。ということは、ヒナの言う通り――全部クロの変態妄想ということよね?」
「う、うぅう~~~~~!」
と、直江の裾をくいくいしてくるクロ。
可哀想に、彼女――変態二人にフルボッコだ。
だがしかし。
直江はクロを信じる。
なぜならば、彼は知っているからだ。
ヒナの変態性を。
そして、綾瀬の狂気を。
などなど。
直江がそんな事を考えていると。
「なんだよ~! あたしも混ぜてくれよ~!」
ずずいっと。
柚木がリビングへと入って来るのだった。