第五十九話 魔境
「おじゃましまーす!」
と、ニコニコ笑顔の柚木。
そんな彼女は、直江へと言葉を続けてくる。
「それで? みんなは直江の部屋に居るのか?」
「いや、みんなはリビングだよ――多分、綾瀬とクロがヒナと遊んであげてると思う。っていうか、僕の部屋にみんなは入れないよ」
「そっか、それもそうだな! にしても意外だ……ヒナって、部長みたいなタイプ苦手だと思ってたけど」
「あぁ……うん、そうだね」
直江も数日前までは、そんな事を考えていた。
だが現実は全く異なる。
「ヒナと綾瀬はさ……趣味が、あうみたい……なんだよね、うん」
「趣味? ヒナと綾瀬の共通の趣味……うーん」
と、考えるポーズをする柚木。
彼女はぺかーんと、直江へと言葉を続けてくる。
「ゲーム――FPSだな! どうだ、あってるか!?」
「あ、あははは……とにかく、リビングに行こうか」
二人の共通の趣味。
FPSだったら、どんなによかったことか。
言えない。
(二人で僕の盗撮動画や写真を見るのが、共通の趣味なんて――いくら柚木であっても言えない)
というか、柚木だからこそだ。
直江の直感がこう言っている。
『柚木に下手な事を言うと、流血事件が発生しかねない』
なんせ、柚木の戦闘力は異常だ。
おまけに彼女、不良グループという兵隊も率いているのだから。
などなど。
そんな事を考えている間にも廊下を通過。
直江はリビングへ通じる扉へ、手をかけようとした。
まさにその時。
「な、直江さん! た、助けて――助けてください!」
と、聞こえてくるそんなクロの声。
同時、開かれる扉――そこから、クロが飛び出してくるのだった。