第五十七話 ここから先は修羅の道②
「ひ、ヒナさんが……わ、私より綾瀬さんに懐いている……だと!?」
と、わなわな震えているクロ。
そんな彼女は、綾瀬へと言う。
「これはいったい、どういうことですか!?」
「どうもこうも、見たままよ?」
「だ、だからどうして、そんなに仲良くなっているんですか!」
「簡単よ。わたしがヒナの心を掴んだだけ……どこにも逃げられない様に、しっかりとね」
と、きゅっとヒナを抱きしめている綾瀬。
一方、それを見たクロはというと――。
(なんかクロ、魂抜けたみたいな顔してるな……でも多分これ)
直江の経験則からすると、おそらくヒナは綾瀬よりクロに懐いている。
というのも。
ヒナは確実に綾瀬の謎動画、および謎写真が欲しくて、ああしているだけだ。
ようするにヒナ、確実に綾瀬を利用している。
(まぁそう言っても、綾瀬にも懐いているとは思うけどね――人見知りのヒナが、理由はどうあれ、こんなに人と話すことなんて滅多にないし)
などなど。
直江がそんな事を考えていると。
「わ、私としたことがボーっとしていました! こ、これは事件ですよ!」
と、直江の袖をくいくい言ってくるクロ。
彼女はわたわたしながら、直江へと言葉を続けてくる。
「直江さん、いいんですか!? ヒナさんが綾瀬さんのモノになってしまいますよ! 早くヒナさんを助け出しましょう!」
「いや、大丈夫でしょ。助けなくても」
「何を言っているんです!? 直江さん、ヘタレたんですか!? このままでは、ヒナさんの純白の心が、真っ黒に汚されてしまいますよ!」
「…………」
ヒナの純白の心……ね。
うん。
ヒナの心はすでに真っ黒だ。
正直、ヒナの心に純白の期間があったかすら疑問だ。
綾瀬もやばいがヒナもやばい。
(類は友を呼ぶってやつなのかな――綾瀬とヒナが仲良くなれた理由)
と、直江は視線を綾瀬とヒナの方へと向ける。
すると。
「ほら、ヒナ。これを見なさいな――この前、学校のトイレで撮ったとっておきよ」
「こ、これはお兄の……っ! は、犯罪……これは犯罪的やばさ……お姉、さすが」
などなど、二人して騒いでいる綾瀬とヒナ。
これでまともな話題で盛り上がっているのなら、直江も安心できるのだが。
内容が予想出来るだけに、若干鬱に――。
ピンポーン。
と、聞こえてくるのは、インターホンの音。
同時。
「お兄、ヒナがでる?」
と、首をひょこりと傾げてくるヒナ。
直江はそんな彼女へと言う。
「いや、僕が出るよ。せっかくなんだから、ヒナは二人に遊んでもらいな」
「ん、わかった……クロ、こっち来る?」
「行きますとも! 私はヒナさんのお姉ちゃん――となれば、ヒナさんが何を見て楽しんでいるのか、しっかりと理解する必要がありますからね!」
と、聞こえてくるヒナとクロの声。
直江はそれを背に、玄関へと向かうのだった。