第五十六話 ここから先は修羅の道
時はあれから数分後。
現在、直江は綾瀬を伴って、リビングへと戻ってきていた。
「綾瀬さん、どこから出てきたんですか?」
と、言ってくるのは、すっかり落ち着いた様子のクロだ。
彼女はジトーっとした様子で、綾瀬へ続ける。
「でも、綾瀬さんでよかったですよ。これでもし、本当に不審者だったりしたら……そう考えるとゾッとします」
「安心しなさいな、クロ。この家に不審者なんか、絶対にあげさせないわ」
ドヤァっと綾瀬。
だがしかし、直江からするとこれ。
「客観的に見ると、綾瀬さんも充分に不審者だと思いますけど」
と、まさにな事を言うクロ。
一方、綾瀬はそんな彼女へと言う。
「わたしが不審者? クロ、随分おかしなことを言うのね」
「いや、そんなに驚いた顔しないでくださいよ……なんだか、自分が間違っている気がしてきます」
「だってそうじゃない? わたしは直江の彼女――いいえ、奥さんなのだもの」
「なっ!?」
と、こちらを振り向いてくるクロ。
彼女の表情は、いかにもこう言いたげだ。
『な、直江さん!? 嘘ですよね!? 綾瀬さんと付き合っているんですか!?』
はい、綾瀬さんの嘘です。
綾瀬さんの妄想です。
さぁ伝われ、この思い。
と、直江は首を左右に振りながら、クロを見つめる。
すると――。
「はぁ……なんだ。綾瀬さんお得意の危ない妄想ですか」
「失礼ね。あんた、わたしにそんな口きいて――夜道には気をつけることね」
と、ギロっとクロを睨み付けている綾瀬。
当のクロは「はいはい」っと見事なスルースキル。
クロ、ここに来て凄まじい綾瀬コントロール能力。
直江も彼女のスキルが欲しい限りだ。
と、そんな事を考えたその時。
「お姉!」
と、聞こえてくるのはヒナの声。
彼女はクロの背中から飛び出すと、綾瀬へと抱き着いていく。
そして、ヒナはそのまま彼女へと言う。
「お姉、お姉! 動画……ヒナ、新しい動画見たい!」
「あら、今日もヒナは可愛いわね。あたし、あたしの事を好きな子は好きよ」
「ん……ヒナ、お姉のこと好き。沢山、お兄の動画見せてくれる……写真も」
「よしよし、今日も見せてあげるから安心なさい」
きゃっきゃっ。
と、はしゃいでいるヒナ。
これはアレだ。
外堀から埋められている!?
(いや、っていうかさ。ヒナの奴、いったいいつの間に、綾瀬とここまで仲良くなったの!? たしかに最初から仲よしになれそうな雰囲気あったけどさ)
まさかここまでとは思わなかった。
パッと見、マジものの姉妹に見えなくもない。
「ば、バカな……」
と、聞こえてくるのはクロの声。
見ると、彼女はわなわなしながら、一人呟いているのだった。
「ひ、ヒナさんが……わ、私より綾瀬さんに懐いている……だと!?」