第五十五話 直江兄妹と魔王とお化け③
「綾瀬だよね……僕の部屋で何してるの?」
「はぁ……はぁ、はぁ」
と、シーツの中の不審者は何も言って来ない。
ただただ、直江へと抱き着いてくるだけだ。
だがしかし。
(正直、この反応そのものが返答に近いよね)
聞き覚えのある女性の声。
直江の部屋に出没。
さらに、直江への過剰な執着。
どう考えても、正体は綾瀬。
と、直江はそんな事を考えた後、身体をよじってなんとか拘束から脱出。
そして、即座に振り返る。
目的は一つ。
とばかりに、直江が不審者のシーツを取り払う。
すると、その下か現れたのは。
「こんにちは、直江」
と、ニッコリ笑顔の綾瀬だ。
この局面でこの笑顔、脳内の構造が非常に気になる。
それはともかく。
「綾瀬さ……なんで僕の部屋に居るの? っていうか、家にどうやって入ったの? 鍵かかったでしょ?」
「鍵? だってわたし、鍵を持っているもの」
と、きょとんとした様子の綾瀬。
気のせいだろうか。
(なんかこれと全く同じ会話……綾瀬と前した気がする)
おほん。
と、直江は気持ちを切り替え、綾瀬へと言葉を続ける。
「うん、鍵はわかった――綾瀬が鍵持ってるのを忘れていた、僕が悪かった。質問変えるけど、僕の部屋にいつから居たの? 綾瀬は僕の部屋で何をしてたの?」
「…………」
「綾瀬?」
「…………」
おかしい。
綾瀬さん。うつむいて、何も言わなくなってしまった。
と、直江がそんな事を考えたその時。
「どうして?」
と、ぽろぽろ泣いている綾瀬。
彼女は突如、直江の肩を掴んで言ってくる。
「なんで、なんでそんな質問ばかりするの!?」
「え、ちょ!?」
「わたしは直江のことが好きなの! だから、ずっと直江の傍に居たいの! 直江が居ないと何もできない! 直江が居ないと安心できない! だから、だからだからだから、だから! わたしが直江の傍に居るための理由なんてないの! なのになんで、なんでそんな疑うような質問をするの!? いや、いや……っ! おねがい、直江! 疑わないで……わたし、あんたの不利益なるようなことしてない! だから怒らないで、お願いお願いお願いお願い……直江、あたしは直江のことが好きなだけなの!」
以上、綾瀬さんの供述。
なお、彼女はこれを三秒で言った。
ぶっちゃけ。
超引いた。
まず、泣きながら迫って来る綾瀬の様子。
これが狂気を感じる。
何言ってるか理解不能なのもそうだが。
そもそも理解させる気なさそうな、超早口もやばい。
つまり。
こわぁ~。
けれど、ここでそれを表面に出すのはダメだ。
そんな事をすれば確実にやられる。
故に、直江は綾瀬の肩に手を乗せ、彼女へと言う。
「うん、わかった!」
「っ……直江、わかって……くれる、の?」
「うん!」
「直江……好き、好きよ直江……わたしを受け入れてくれるのは、あんただけ……あんたを受けいれられるのも、あたしだけよ」
っと、直江の手を握って来る綾瀬。
この時、直江はふと思ったのだった。
(これ、いつか綾瀬のペースに取り込まれそうな気がする……もしそうなったら)
ゲームセット。
綾瀬家に仲間入り、死ぬまで監禁生活まっしぐらだ。