第五十四話 直江兄妹と魔王とお化け②
「……っ!」
と、直江はクローゼットを勢いよくあける。
するとそこに居たのは――。
「……なんだ、誰もいないじゃないか」
緊張した直江がバカみたいだ。
まぁ、よく考えてみれば当たり前だ。
家に不審者など、早々出るわけがない。
幽霊などとれば、なおさらだ。
(まぁ、防犯にかんして油断はしない方がいいけど……今回のは、少し警戒しすぎた感あるよね)
だが、そうなると一つ疑問がある。
いったい、ヒナはこの部屋で何を聞いたのか。
「でも、とりあえず今はヒナたちにこの結果を報告した方がいいよね」
いつまでも緊張させたまま、二人を下で待機させているのは可哀想だ。
と、直江がそんな事を考えたその時。
ガタッ。
ベッドの方から、そんな音が聞こえてくる。
同時、直江の身体は一瞬で凍り付く。
とある可能性に気がついてしまったからだ。
それは――。
直江達がこの部屋にくるまでに、少しの時間があったということ。
すなわち。
仮にこの部屋に何ものかが居たとする。
その場合、この部屋には空白の時間があったのだ。
この部屋に潜む者にとって。
隠れ潜む場所を変える――それくらいの猶予が。
「…………」
まずい。
まずいまずいまずい。
と、直江はそんな事を考える。
そして、ベッドの方へ視線を向ける。
するとそこに居たのは。
お化けだ。
シーツを被った何かが。
ベッドの上に立っていた。
「ひっ!」
と、直江はすぐさま方向転換――ダッシュで部屋の外へ逃げようとする。
だがしかし。
ガシッ。
グイッ。
と、掴まれ引っ張られる直江の肩。
直後。
「はぁ……はぁ、はぁ……っ!」
と、そんな荒い息遣いの不審者。
奴に直江は背後から抱きしめられてしまう。
「う、うわぁあああああああああああああああああああっ!」
と、直江は暴れ、不審者による拘束から脱出しようとする。
けれど、不審者の根性も凄まじい。
「はぁ、はぁ……直江、直江ぇえええええええええええっ!」
と、決して直江の事を離そうとしない。
いったいどうすれば……何をすれば、ここから逃げられるのか。
(ヒナたちを呼ぶのは論外だ! っ……こういう時に柚木が居れば!)
と、そこまで考えたその時。
直江はとあることに気がついてしまう。
それは――。
「直江、直江直江直江直江直江直江!」
そんな不審者の声。
どうにもその声、聞き覚えがあるのだ。
というか、この声……冷静になって聞いてみれば。
「…………」
直江はピタリと静止。
そして、確信をもって不審者――直江に背後から抱き着き、はぁはぁしている変態へと言うのだった。
「綾瀬だよね……僕の部屋で何してるの?」