第五十一話 魔王様の休日③
「ジトー……」
と、クロを見つめているのはヒナだ。
一方のクロはというと――。
「…………」
カァ~ッ。
と、そんな様子で完全フリーズしてしまっている。
(しまった……今日はヒナが家に居る事、クロに言ってなかった気がする)
などなど。
直江がそんな事を考えたその時。
「リアル中二病……乙」
言って、ささっと再びどこかへ行ってしまうヒナ。
きっと、また部屋に戻ったに違いない。
となれば、残す問題は一つ。
それはすなわち――。
「う、うぅうう~~~~~~~~っ!」
と、ぷるぷる震えているクロのフォローだ。
彼女はトテトテ直江の方へ寄ってくると、へたりとソファーに座る。
そして、彼女は彼へと再び言葉を続けてくる。
「直江さん……また見られました」
「う、うん」
「ヒナさんに見られたのは、これで二回目です……もう、終りかもしれません」
「だ、大丈夫! 大丈夫だよ!」
ぶっちゃけ、何が大丈夫かはわからない。
直江がそんな気持ちで言ったのが悪かったに違いない。
「全然大丈夫じゃないですよ! そもそも、ヒナさんが居るなら居るって、最初からそう言ってくださいよ!」
「それはごめんって! でもほら、クロもさっき言った通り――ヒナに見られるのは二回目だし、もう慣れてきたんじゃない?」
「慣れる訳ないですよ! 直江さんはパンツ丸出しで登校するの、慣れたりしますか!? 慣れませんよね!?」
「いや、まぁそれは慣れないけど」
クロが自らの魔王モードを見られること。
それは、彼女の中ではパンツ見られることと、同義なのだろうか。
だとしたら、直江は普段クロのパンツを見ているということ――。
「直江さん……今、不埒なことを考えていますね」
と、直江の思考を断ち切るように、聞こえてくるのはクロの声。
彼女はジトッとした様子で、直江へと言葉を続けてくる。
「いいですか、直江さん。今のはあくまで例えです……私の中で、魔王とは魂そのもの! つまり、身体の中でもっとも大事なところです!」
「え、えっと……ようするにどういうこと、かな?」
「要するに、直江さんは自分のもっとも大切なものを、容易に人に晒して歩け回れますか? と、そういうことですよ!」
なるほど。
パンツの例えで混乱したが、これなら少しわかる。
けれど、直江はここでふと思う。
(クロはそんなに大切なものを、僕の前で普通に晒してくれる)
きっと、直江の想像以上に、クロは直江の事を信頼してくれているに違いない。
などと考えていると。
「お、おほん! とにかく、仕切り直して行きましょう!」
と、言ってくるのはクロだ。
彼女はソファーから立ち上がり、ポーズをとって直江へと続けて言ってくる。
「この家の防御力を上げる方法ですが、何かいい案はありますか?」
「って言われても……うーん、防犯カメラつけるとか?」
「ちっがいますよ! 直江さんは何回言えばわかるんですか! カメラでどうやって、冒険者の侵攻を食い止めるんですか!」
バンバン。
バンバンバン。
と、足を鳴らすクロ。
この後輩魔王様、なんだか小動物に見えてきた。
ほほえまぁ……というやつだ。
「むぅ! なんですかその顔は! 直江さん、私をバカにしていますね!」
と、言ってくるクロ。
彼女はズビシっと直江を指さし、言葉を続けてくる。
「我が名はクロ! 世界に災いをもたらす魔王である! 我が右腕とはいえ、その態度……到底許すことが――」
「はいはい、わかったわかった」
「あっ、ちょ――や、やめてください! 頭を撫でないで……っ、これは、これは反則です! え、えぇい! 魔王の頭に触れるなぁああ~~~!」
わしゃわしゃ。
自らの頭の上で手を振り始めるクロ。
きっと防御しているつもりに違いないが、まるで意味をなしていない。
いよいよ、本当に小動物に見えてきた。
と、そんなことを考えた……その時。
「お、お兄ぃいいい~~~~~~~~~~~~~っ!」
ドタドタドタドタ。
バタバタバタバタ。
聞こえてくるヒナの声。
そして、尋常でない物音。
これはいったい何事――。
「ついに来ましたか……行きますよ、直江さん!」
と、なにやらノリノリのクロ。
彼女は直江へと手を差し出しながら、言葉を続けてくるのだった。
「ヒナさんが冒険者に襲われているのです! 魔王は配下を決して見捨てません……さぁ、彼女を助けに行こうではないか!」