第五話 僕達私達の日常です(真)~イカれた愛に首輪の贈り物~
時は変わらず夕方。
直江は魔王との邂逅の後、一人帰路へとついていた。
「まさかクロにあんな趣味があったとはな」
意外と言えば意外だ。
しかし、何も隠す必要なかったように思う。
(クロの頼みなら、いつだって付き合ってあげるし……僕達の中でクロの趣味をネタにして笑うような人は――)
一瞬。
本当に一瞬だけ、綾瀬の顔が浮かんだが気のせいに違いない。
まぁ、仮に勘違いではないとしてもだ。
綾瀬は本当に人を傷つけるようなネタにはしないに違いない。
なんだかんだで、彼女は優しいのだ。
と、直江がそんなことを考えていた。
まさにその時。
「ん……雨?」
天気予報では夜まで晴れだった。
にもかかわらず、頬にポタリとあたる水玉。
当然、折りたたみ傘の類は持ってきていない。
(しかたない。少し濡れるけど、走って帰るしか――)
「直江?」
と、思考を断ち切るように聞こえてくる声。
見れば、すぐ傍の玄関先――そこに立っていたのは綾瀬だ。
彼女は直江へと言葉を続けてくる。
「あんたの帰り道、こっちなのね……知らなかったわ」
「そう、ですね。なんだかんだで、部長と一緒に帰ったことは――っていうか、まさかこの家……部長の家ですか!?」
「えぇ、そうね……言ってなかったかしら?」
「…………」
言われてない。
というか。
(三階立ての一軒家……しかも、敷地がかなりある。まさか部長ってお嬢様なのでは……)
などなど。
直江がそんな事を考えていると。
ザァアアアアアアアア。
と、いよいよ本格的に降り始める雨。
これはもう呑気に話している場合ではない。
綾瀬に挨拶をしたのち、全力で帰らなければビチョビチョに――。
「直江……あんた、さっきからソワソワしてるけど、まさか傘を持っていないの?」
と、言ってくるのは綾瀬だ。
彼女は直江へと、さらに言葉を続けてくるのだった。
「よかったら、雨が収まるまで上がっていく?」