第四十八話 無双してみた?④
(守らなきゃ……僕は柚木が信頼してくれてる、幼馴染なんだから)
と、直江はそんな事を考えたのち。
柚木を守るために、彼女の前へと出る。
まさにその時だった。
「うっ……ぐあっ!?」
と、直江と目が合った不良の一人。
彼が不自然に吹っ飛んだのだ。
いったい何が起きたのか。
直江がそれを理解するより早く。
他の不良が直江へと言ってくる。
「てめぇ! タケちゃんに手をだしやがったな!」
「え……僕は何も――」
「うるせぇ! 死ねぇえええええええええええ!」
と、殴りかかってくる不良。
きっと、喧嘩慣れしている人ならば、防御するなり出来るに違いない。
けれど、直江は咄嗟に、顔を守るために手を翳すくらいしかできない。
(ダメだ、殴れる! だけど……それでこいつらが満足して、柚木が無事ならっ)
それはそれでいい。
と、直江が覚悟を決めた瞬間。
直江の腹に、不良のパンチがヒットする感覚。
しかし、何故かそれは痛いどころか、撫でるような弱さしか感じられない。
おまけに。
「うおぁあああああああああああ――つぇあっ!?」
パンチを放ってきたそんな不良。
彼は反動に耐えかねるように、吹っ飛ばされ動かなくなってしまう。
「ジュンさん! て、てめぇ! タケとジュンさんに何しやがった!」
「おい、こいつ強いぞ!」
と、言ってくるのは残りの不良たちだ。
彼等は警戒しているに違いない。
ジリジリとした様子で、直江の方へと近寄って来る。
これはいったい……。
何が起きているのだ。
(最初の人もそうだけど、二人目の人にも僕……何にもしてないんだけど)
と、直江がそんな事を考えた。
まさにその時。
「すごい! 直江かっこいい! やっぱりあたしの幼馴染は最強だ! こんなに強くて、あたしのことを、いつでも守ってくれる!」
と、言ってくるのは柚木だ。
彼女はきゃっきゃっと、直江の後ろで跳ねている。
まるで、さっきまでの怖がり様が嘘だったかの――。
「はっ!」
こうして、直江はとある考えに思い至る。
それはこうだ。
柚木のさっきまでの反応。
本当に全て嘘だった説。
考えてみればおかしい。
実際に見てはいないが、柚木はとんでもなく強いはずなのだ。
有名な不良グループの頂点に立ち、学校同士の抗争の最終兵器になる程度には。
(それが今更、こんな不良たちに怖がる? っていうか、それ以前にこの人達……ひょっとして)
と、そんな事を考えたのち。
直江は拳を握りしめ、試しに不良たちの一人に走っていく。
そして、超手加減したヘロヘロパンチを、不良の肩にあてる……すると。
「ぐあぁああああああああああああああああっ!? か、肩が! 肩がぁああああああああああああああああああああああああっ!」
と、吹っ飛んでいく不良。
それを見た残った不良一人は。
「マサやん! ち、ちくしょう……肩が砕けてる! こんな美人の女性を連れている上に、こんなに強いだと!? なんて完全無欠のカップルなんだ! くそ、うらやましいぜ! 早く結婚しちまえばいいのによぉ!」
などと、言ってくる。
これはもう確定だ。
この不良たちは、柚木の仕込みだ。
いったい、柚木は何が狙いなのか。
と、直江がそんな事を考えていると。
「な、直江! 大変だ! あたし達は完全無欠のカップルで、早く結婚した方がいいらしい! ど、どうしよう……で、でも嬉しいな……えへへ」
頬に手を当て、そんな事を言ってくる柚木。
直江はそんな彼女へと言う。
「……ねぇ、柚木。間違ってたら申し訳ないんだけど、この人達って柚木の知り合いじゃないよね?」
「え?」
「えっと、もしそうなら何のために、こんな事してるのか知りた――」
「ち、違う違う! 吊り橋効果で相思相愛なんて狙ってない! あ、あたしがその……ほら、不良と付き合いあるわけないし!」
などなど、苦しい様子の柚木さん。
彼女は不良を睨み付けるかの様にしながら、言葉を続ける。
「おい! てめぇも、あたしのことは知らないよな? あたしとてめぇらは、今初めて会った……そうだろ?」
「え、あ……はい! 柚木の姉御とは今はじめ――」
「あぁ!?」
「ひぃ! あ、あなた様みたいな強くて美しい女性とは、今初めて出会いました!」
「ほ、ほらな、直江!? あ、あたしの言う通りだっだでございましょう!?」
いったい柚木、何が『ほらな』なのか。
もはやボロボロだ――あと、語尾もなんかおかしい。
などと、直江が考えている間にも。
「おい、てめぇら! 用件済んだなら、さっさと失せろ! これ以上、あたしに恥かかせたら、てめぇらの事を再起不能にするぞ?」
と、聞こえてくる柚木のそんな声。
そして、それに応じて逃げ去って行く不良たち。
直江はそんな彼等と、柚木を見て思うのだった。
(せめて、もう少し打ち合わせしておけばいいのに……そもそも、僕にわざとやられるにしても、あのやり方じゃ露骨すぎるよね)
ちょっと触れただけで吹っ飛んだり。
視線が合うだけで吹っ飛ぶって……。
いったい、どこのアニメ時空だ。
「あ、あははははっ……あいつら、何だったんだろうな……あ、あはは、は」
と、気まずそうな柚木。
なんだか、見ていて可哀想になってきた。
なので、彼はそんな柚木の手を握った後、彼女へと言うのだった。
「と、とりあえずその……ゲームセンター、行こうか?」
「……うん、直江のこと、やっぱり好きだ」
どうも、アカバコウヨウです。
いちおう紹介なのですが……自分、上の名前でツイッターもやってるので、よければフォローよろです。