第四十七話 無双してみた?③
「よし、柚木のおかげで美味しそうなお菓子も買えたし、今日はありがとう!」
「お、お礼を言うのはこっちだ! 直江にこれ……買ってもらったし」
と、そんな柚木が抱きしめているのは、サメのぬいぐるみだ。
彼女はずっとこうだった。
直江が雑貨屋で、サメを柚木に買ってから。
その店を出た後……そして、菓子店を見終わる今に至るまで。
道を歩いてる最中も、ひたすらサメをぎゅっとしていた。
(こんなに大事にしてくれると、買ったかいがあるけど……)
道中。
周囲の人が、直江と柚木をほほえましそうに見てくるのは、少し恥ずかしかった。
まぁ、柚木がこうまで幸せそうならば、些細な問題に違いない。
と、そんな事を考えていると。
柚木が直江へと言ってくる。
「なぁなぁ直江~、この後って暇か?」
「ん、暇だけど……どうして?」
「実はあたし、直江と行きたいところがあるんだ!」
「うん、いいよ。柚木が行きたいところなら、どこでも付き合うよ」
当たり前だ。
直江は今日、柚木から誘われはした。
しかし、結局回ったのは直江が行きたいところばかり。
となれば、これから柚木に付き合っても損はない。
むしろ、そうしなければ申し訳ないくらいだ。
と、直江が考えていると。
「本当か!? 直江~~~~~!」
ギュッとサメごと抱き着いて来る柚木。
彼女はそのまま、直江へと言葉を続けてくる。
「あたし、ゲームセンターに行きたいんだ!」
「柚木がゲームセンターなんて、珍しいね。いつもだったら、スポーツ系の施設とかいくのに」
「今日は特別なんだ! すごいプリクラが在るみたいだから、それを直江と一緒に取りたいんだ!」
「へぇ、なんだか面白そうだね。それって、どうすごいの?」
「え……それは、とにかくすごいんだ! と、とにかく行こう!」
ぐいぐい。
と、引っ張って来る柚木。
後半、言動が少し怪しい気がしたが、気のせいに違いない。
「あ、直江! そういえば、こっちの路地裏通った方が近いから、ここを通り抜けて行こう!」
と、言ってくる柚木。
直江はそんな彼女へと言う。
「でも、この路地裏ってあんまりいい噂聞かないけど……たまに、不良のたまり場になってるって――」
「大丈夫大丈夫! 今は昼間だから、そんな連中居ないって!」
と、そんな柚木に、直江は引っ張られて行くのだった。
…………。
………………。
……………………。
そんなこんなで、路地裏を中ほどまで進んだ頃だ。
結論から言おう。
「おうおうおう! てめぇら、なにイチャついてんだよこら!」
まったく大丈夫ではなかった。
現在、直江と柚木は多数の不良によって、取り囲まれている。
そして、そんな彼等は順に言ってくる。
「なぁおい、何シカトしてんだよ!」
「通行料払えって言ってんだろうが! 百万……一人百万な!」
「払えねぇなら、そっちの嬢ちゃん置いてけよ! 俺達が可愛がってやるからさ!」
「そうそう、俺達でひぃひぃ言わせてやるよ!」
同時、ゲラゲラ笑いだす不良たち。
何が面白いのか、まったくわからない。
「な、なおえ……っ」
と、震え声で寄り添ってくるのは柚木だ。
柚木が裏でいくらヤンキーとはいえ、やはり女の子。
きっと、彼女は怖いに違いない。
(守らなきゃ……僕は柚木が信頼してくれてる、幼馴染なんだから)
直江はそんなことを考えた後。
柚木を守るように前へと出るのだった。