第四十五話 無双してみた?
時はあれから数分後。
場所は商店街。
「~~~~♪」
と、ご機嫌な様子で隣を歩くのは柚木だ。
直江はそんな彼女へと言う。
「なんか用事があったみたいだけど、本当に僕の買い物に付き合ってもらってよかったの?」
「もちろんだ! たしかにあたしは『直江とどうしても遊びたい』って言った。だけどそもそも、あたしはこうして直江と出歩きたかったんだ!」
「えっと、僕と散歩したかったってこと?」
「あたしはこうして、直江と歩いてるだけで、とっても楽しいからな!」
などなど、胸に手を当て、ぽわぽわした様子の柚木。
と、その時。
「きゃっ!?」
と、何もないところでつまずく柚木。
直江は咄嗟に――。
「大丈夫、柚木!?」
と、そんな彼女を受け止める。
のだが。
(っ! 柚木の柔らかい個所が、僕の腕に……い、いや無心だ! これはアクシデント……アクシデントなんだ! それを理由に邪な感情を抱くのはダメだ!)
とりあえず、意識を柚木のそれから逸らさなければ。
と、直江は柚木を支えおこした後、彼女へと言う。
「えっと、怪我はないかな? 足とかくじいてない?」
「うん、大丈夫だ! あはは……あたし、変な所で転んでバカみたいだな! でもその……直江がいつも助けてくれるから、安心だ!」
「わっ、ちょ――!?」
「なんだよ直江、照れるなよ~! お礼のハグくらいいつもしてるだろ~!」
そうじゃない
問題なのは、周りの人が見ていることだ。
とても恥ずかしい。
と、直江はそんな事を考えながら、周囲を見渡す。
そこで、彼はとあることに気がついてしまった。
それは直江の視線の先。
喫茶店の窓ガラスに映る柚木の顔。
その口元が、ゆっくりこう動いたのだ。
『キスは失敗……か』
なるほど。
柚木がこけたのも、全部演技だったわけか。
などと。
直江が考えていると。
「さ、なーおえ、買い物の続きだ! 気を取り直して行こう!」
と、ニコニコ言ってくる柚木。
彼女はクルッとその場でターンを決めた後、直江へ続けてくるのだった。
「今気がついたけど、デートみたいで楽しいな……えへへ」