第四十四話 ついにやってきた休日
この一週間。
本当に色々なことがあった。
例えば。
後輩が中々に痛々しい趣味を持つ、魔王様であったり。
例えば。
先輩が狂気の愛を向けてくる、完全ヤンデレヒステリー少女だったり。
例えば。
幼馴染の人格が全て演技で、実は凶暴ヤンキーだったり。
例えば。
義妹が兄を性欲、そして恋愛の対象とみている変態であったり。
これまで直江が見てきたラブコメ作品。
そのヒロイン達はとても魅力的だった。
もちろん、ちょっとおかしいのも居たけれど精々一人か二人。
(もしも僕が住んでいる世界が、ラブコメの世界だとしたらヒロイン全員変態か……完全に御臨終してるな……は、ははっ)
なんにしても、今日は休日だ。
今朝もせっせとナニかをしていたヒナ。
彼女から逃げることは不可能だが、それに目を瞑れば家でゆっくりできる。
と、直江が考えてリビングのソファー。
そこに寝転がった、まさにその時。
ピンポーン。
タッタッタッタッタッ。
ガチャ。
聞こえてくる音。
ヒナが誰かは知らない客人を、出迎えてくれたに違いない。
(それにしても誰だろう。今日は誰とも遊ぶ約束してないし、通販サイトで何か買ってもいない)
きっと、父か母の荷物でも届いたに違いない。
直江は一人納得し、ソファーでおくつろぎモードを続行しようと――。
「~~~~~~~~~~~~!」
「~~~~~~~~~~~~!」
と、内容は聞き取れないが、なんだか揉めている気配がする。
正直、猛烈に嫌な予感がする。
だが。
(もしも本当に不審者だった時とかに、ヒナが危ない。さすがに聞こえなかったふりして、放置しておくのはまずいよね)
と、直江はソファーから立ち上がる。
そして、玄関の方へと歩いて行く。
すると、次第に聞こえてくるのは。
「なんだよ~! 直江に会いたいだけなんだから、いいじゃないかよ~!」
「そう言って、柚木はリビングから動かなくなるからダメ……今日はヒナとお兄の時間」
そんな柚木とヒナの声だ。
直江が廊下から玄関を見てみると。
ヒナは柚木をプッシュしながら、彼女へと言葉を続ける。
「とにかく帰って……」
「そもそも、ヒナは毎日直江と一緒に居るんだから、別にいいだろ? 今日はどうしても直江と遊びたいんだよ! だから、せめて直江に――あ、直江!」
「え、お兄!?」
「直江~! ちょっとヒナの事を説得してくれよ!」
どうしよう。
正直、今日ばかりはかかわりたくない。
ソファーでゆっくりしていたい。
先も言ったように、今日は休日。
ようやく直江に訪れた、頭の中ゆっくり整理タイムなのだ。
けれど。
(せっかく来てもらったのに、柚木を追い返すのは失礼だし可哀想だよね。それにさっき、柚木はこう言っていた)
『今日はどうしても直江と遊びたい』
きっと、何か特別な用事があるに違いない。
と、直江はそんな事を考えながら、ヒナへと言う。
「ヒナとはさっきまで遊んでたでしょ?」
「お、お兄? ひょっとして……柚木と遊ぶの?」
「そんなにシュンとしなくても大丈夫、帰ってきたらまたヒナと遊んであげるから。それに明日も休みだしね」
「……でも」
これはヒナ、相当に誰かと遊びたいに違いない。
となれば。
「今日は父さんと母さんも居るから、起きたら遊んでもらえばいいよ。多分、もうすぐ目覚ましなって起き――」
「っ! お兄のバカ! ヒナが遊びたいのは……っ!」
ぷいっと、走り去ってしまうヒナ。
どうやら、ご機嫌を損ねてしまったに違いない。
(なんか言っちゃったかな……古典的だけど、とりあえずお土産でも買って、機嫌を直してもらうしかない)
と、直江はそんな事を考える。
そして、目の前の柚木へと言葉を続けるのだった。
「ごめん、ちょっと買い物に付き合ってくれない?」