第四十二話 愛災弁当③
時はあれから数分後
直江はヒナへ事情を説明。
その後に、再びリビングへとやってきていた――無論、ヒナを伴って。
結論から言うと、直江が部屋に戻っている間に、綾瀬は落ち着いてくれたに違いない。
なぜならば。
「あらヒナ、おはよう」
と、満面の笑みでヒナに話しかけるのは綾瀬。
初対面とは思えない対応だ。
一方、そんな挨拶を受けたヒナ。
彼女は――。
「お兄……あの人、なんだか怖い」
と、直江の背中に隠れ、綾瀬をのぞき見している。
幼いながらも、これが女の勘というに違いない。
(うん、その通りだよヒナ。あの人は怖いよ……とっても怖い女の人だよ。だから、ここは大人しくしておこうね)
まぁ、先も言った通り。
ヒナには事情を説明している。
そのため、安易に綾瀬を刺激したりはしないに違いない。
「直江もヒナも、いつまでボーっとしているの? 早く座りなさい――せっかく作った料理が冷めちゃうわ」
と、直江の思考を断ち切る様に聞こえてくるのは、綾瀬の声。
彼女は料理を運びながら、直江とヒナに言葉を続けてくる。
「ほら。味付けも全部……あんた達のお母さんと同じにしてみたの。だから、きっと気に入ってくれると思うわ」
なるほど。
リサーチは充分というわけか、それはすごい。
で……どうやって、母の味を調べたんですかね。
クイクイ。
クイクイクイ。
と、引っ張られる直江の袖。
そちらを見ると、ヒナが直江へと言ってくる。
「お兄、どうするの? あの人……やばいよ、絶対」
「大丈夫、僕達を傷つけるような人ではないよ――それだけは信頼できる、多分。まぁとにかく、せっかく作ってもらったんだから、とりあえず食べてみよう」
と、直江はヒナを伴って席につく。
こうして、綾瀬との初めての朝食会が始まったのだった。