第四十一話 愛災弁当②
時はあれから数分後。
場所は一階――リビングにあるキッチン。
「あら、おはよう直江」
と、包丁片手に言ってくるのは、直江のワイシャツだけを纏った綾瀬だ。
彼女はトントンと、何かを切りながら言葉を続けてくる。
「もうすぐ朝ごはんができるから、ヒナを呼んできて。あぁ……それと、二人のお弁当はわたしが作ってあげるから」
「…………」
「どうしたの、そんなにわたしを見て? まさか直江……わたしを襲いた――」
「いや、何してるんですか?」
「朝ごはんと、お弁当を作っているわ――直江とヒナの」
「いや、ちがくて。勝手に家の中うろうろしたり、勝手に料理されると僕はともかく、ヒナが怖が――」
ダンッ。
と、綾瀬が包丁でまな板を叩く音。
その直後。
「なんで? ねぇ、なんで!? わたしがこんなに直江を思ってるのに! 全部直江のためにしてるのに! どうして!? どうして怒るの!?」
と、包丁片手に振り返る綾瀬。
彼女はそのまま、直江へと言葉を続けてくる。
「ねぇ、お願い……嫌わないで、怒らないで……わたし、あんたに嫌われたら……嫌われたら生きて行けない……もしそうなったら、もしそうなったらもしそうなったらもしそうなったもうもうもうもうもうぅううううう……っいやぁああああああああああああああああああああああああああああっ!」
「ちょっ!? お、落ち着いてくださいって! 危ないですから、落ち着いて!」
「直江、愛してるの! 直江を愛してるだけ! だからお願い、怒らないで! 嫌わないで! わたしを見て、わたしの愛を受け止めて!」
「お、怒ってませんよ! あ、そうだ! ヒナを呼んでくるんでしたよね!? 呼んできますね! だから、綾瀬は料理を続けてくださいね!」
と、直江は即座に方向転換。
直江の部屋に待機中のヒナを目指す。
「…………」
あれはやばい。
とんでもないものを見た。
触らぬ神に祟りなし。
恐ろしい。
怖すぎる。
身の危険を感じた。
とりあえず、綾瀬に調子を合わせ、普通に食事をする。
その後、学校だから……と、彼女を家から追い出――ではなく、送り返す。
それが無難に違いない。