第四十話 愛災弁当
場所は変わらず直江の部屋。
時は――。
「んっ……あれ、朝?」
直江の記憶では昨日、綾瀬が襲来。
なんやかんやあって、彼女を拘束。
その後、彼女をベッドに寝かせ、拘束を解いたところまでしか覚えていない。
「あの後、僕も結局寝ちゃったのか」
ぽわぽわ。
と、朝だからか、いまいち頭が回らない。
とりあえず思うのは。
(綾瀬は部屋に居ないし、無事に帰ってくれたみたいだな……でも、やっぱり綾瀬もなんだかんだで優しいな)
と、直江は自らにかかった毛布を見下ろす。
きっと、直江が風邪をひかないよう、綾瀬がかけてくれたに違いない。
「…………」
本当。
普段から、こういう面だけ見せてくれたら、綾瀬は完璧だ。
まぁもう、何を言ってもしかたないが。
なんにせよ、そろそろ起きよう。
今日も今日とて学校。
このままグダグダしていれば、遅刻してしま――。
「お兄! お兄~~~~~~~~~~~~! お兄お兄!!」
と、階段を駆け上がる音と共に聞こえてくるのは、ヒナの声。
日頃静かなヒナがこんな声を出すのは、ただごとではないに違いない。
直江はすぐさま毛布を跳ね除ける。
そして、立ち上がると全速力で部屋の外へと飛び出す。
「ヒナ!? 何かあったの!? 大丈夫!?」
「お兄! お兄!」
と、直江に抱き着いて来るのは、怯えきった様子のヒナだ。
直江はそんなヒナを抱きしめ、頭を優しく撫でながら彼女へと言う。
「ヒナ、落ち着いて! どうしたの? 怪我? それともGがでたの!?」
「へ、変な人……へ、変な人が、家の中に居る……!」
「変な人って――父さんと母さんは、まだ下に居るの?」
「今日は早い日……だから、もう居ない。ね、ねぇお兄……ど、どうしよう」
と、より強く抱き着いて来るヒナ。
直江はそんな彼女へと、言葉を続ける。
「ヒナ、その変な人って、何か武器を持ってた? ヒナは何かされそうになった?」
「ほ、包丁……それで、ヒナは何もされてない……そ、その人、ずっと料理してるから」
「……へ?」
家に勝手に侵入。
しかも包丁で武装。
ここまで聞くとやばいが、料理をしている?
「……あのさ、ヒナ。その人、金髪の女の人じゃなかった?」
「……(こくこく)」
と、末だ怯えた様子のヒナ。
正直、もはやため息しかしない。
なぜならば。
「怯えさせてごめん、ヒナ。多分その変な人、僕の友達だ」
と、直江はとりあえずヒナを部屋に待機。
一人、一階へと降りていくのだった。