第三十六話 深夜の訪問者
「う~ん……」
時は夜。
場所は直江の部屋――ベッドの上。
現在、直江は非常に苦しんでいた。
その理由は簡単だ。
(昨日寝不足で、めちゃくちゃ眠かったとはいえ、夜の七時に寝たのは失敗だったな)
と、直江はそんなことを考えながら、枕元のスマホを手に取る。
するとそこに記された時間は――。
深夜三時。
今回のことで、直江は学んだ。
直江の体内時計は、六~八時間睡眠で起床にセットされているに違いない。
要するに、何が言いたいかというと。
「ダメだ……完全に目が覚めてる」
なんなら、今から勉強しても寝ない自信ある。
そのレベルで眠くない。
だがしかし。
(これじゃだめだ。なんとか眠らないと、明日また寝不足になる)
そうなれば負のスパイラル。
行く着く先は昼夜逆転。
遅刻常習犯の出来上がり。
「…………」
無心だ。
目を瞑っているだけでも、大分違うに違いない。
と、直江が考えたまさにその時。
ギシッ。
ギシッギシッ。
聞こえてくるのは、そんな階段を登って来る足音。
雰囲気からして、気配を殺そうとしているのがわかる。
(こんな時間に誰だろう? ヒナがトイレに行ってた……はないか。僕の目が覚めたのは、一時間くらい前――それから今まで、ヒナが階段降りる気配はなかった)
じゃあ誰なのか。
考えられるのは両親だが。
(それにしたっておかしい……よね)
直江の脳裏に過ぎったのは、最悪の予感。
深夜、なかなか寝れないとくれば、相場は決まっている。
まさか足音の正体、幽霊なのでは。
と、直江が考えた。
その直後。
ヒタリ。
直江の部屋の前で、立ち止まる足音。
これはやばいやつだ。
絶対にやばいやつだ。
直江は頭まで毛布をかぶり、全力で寝たふりをする。
けれど。
ガチャッ。
キ~。
ヒタリ、ヒタリ。
開く扉の音。
だんだん直江の傍に近づいて来る足音。
しかも。
「はぁ……はぁ……」
毛布一枚通した耳元。
そこから聞こえてくるそんな声。
ダメだ、もう限界だ。
「う、うわぁああああああああああああっ!」
と、直江は毛布を跳ねのける。
そして、スマホを即座にキャッチ。
続けて、ライトをオンにして、正体不明の何かを照らす。
するとそこに居たのは。
「あ、綾瀬……?」
眩しいに違いない。
顔の前に手を翳す、彼女の姿だった。