第三十四話 まおいもエンゲージ②
「ハァハァ……お兄。お兄が……ヒナのを……ッ」
「終わりました! もう終わりました! 何もかも終わりです!」
などなど。
ヒナとクロが暴走してから、時は数分後。
場所は変わらず公園。
「ふぅ……少し取り乱した」
「よく考えれば、まだ説得のチャンスがあります!」
と、順に言ってくるのはヒナとクロだ。
ヒナがどこかテカテカした表情なのは、とても気になる。
だが。
(なんとか落ち着いてくれてよかった。必死にヒナとクロに話しかけたかいがあったな)
ヒナは変態なので、これ以上落ち着くとかはありえない。
となれば、後はクロの不安を取り除く。
それで万事解決だ。
と、直江が考えていた。
まさにその時。
「直江さん。それでその子、誰なんですか? 雰囲気見ている限り、直江さんの知り合いみたいですけど」
と、言ってくるのはクロだ。
彼女はチラチラと、露骨にヒナへ視線を送っている。
一方のヒナはというと。
「……うぅ」
と、人見知り発動。
ヒナはすっかり、直江の後ろへ隠れてしまっている。
ヒナは昔からこうなのだ。
直江には懐き、かなり多弁な方になる。
しかし、他の人の前では借りてきた猫状態。
だが。
ヒナには悪いが、今日ばかりはこのままにしておけない。
ぐいぐい。
直江はヒナを自らの前へと押し出す。
そして、クロと対面させる形で、彼女へと言う。
「えっと、こいつはヒナ。僕の妹で、僕達と同じく狐耳ヶ浜学園に通ってる――もっとも、ヒナはクロがさっき言った通り、まだ中等部の二年生だけどね」
「ほう……直江さんの妹さん」
「ヒナは見ての通り、引っ込み思案の人見知りだけど。よかったら仲良くしてほしいんだけど――ほら、こうして出会ったのも何かの縁だし」
「もちろんですよ! 直江さんの妹ということは、私の将来のいも――ではなく、私の後輩でもありますからね!」
と、そんなクロ。
彼女はヒナの方へと手を差し出し、彼女へと言葉を続けてくる。
「はじめまして、私はクロと言います」
「は、はじめ……まして。ひ、ヒナは……ヒナ……うぅ」
もじもじ。
ごそごそ。
と、再び直江の背後へ回るヒナ。
こうしてみると、彼女の人見知りは致命的だ。
(ほんと、よく僕には懐いてくれたよね――まぁ、厳密には懐いているわけじゃなかったけど)
と、直江が考えていると。
直江の身体と、腕の間からひょこっと顔を出してくるヒナ。
そんな彼女はクロへと言う。
「お、お兄と……その、お兄となに、してたの?」
「ん? あぁ、大丈夫ですよ。ヒナさんがやきもち焼きになるような事は、一切していませんので」
「で、でも……お兄にその……ぱ、パンツ撮らせて……よ、喜んでた……へ、変態!」
「なっ!? そんな事していませんよ! っていうか、変態とはなんですか! 失礼ですよ! 抗議です! 私はいたってまとも、私程の常識人はいないと断言できます!」
と、そんな二人のやり取り。
直江はそれを聞いて思うのだった。
(ヒナが相手を変態と罵り、クロは常識人を名乗るか……)
うん。
変態と常識人ってなんだろう。
まぁたしかに、クロは常識人レベル高い気はする――あくまで、直江の周囲の人たちと比べてだが。