第三十三話 まおいもエンゲージ
「お兄……何してるの?」
聞こえてくるのはヒナの声。
直江が地面に寝そべったまま、ゆっくり方向転換すると。
そこに居たのは――。
「お兄……どうして、その女の人のパンツ撮ってるの?」
ジトーとした視線を向けてくるヒナさん。
彼女はそのまま直江へ、言葉を続けてくる。
「そんなに見たかったの? ……女の人のパンツ」
「え、いや――」
「だったら、言ってくれればいい……お兄にならその……ヒナの……ヒナの……ヒナのがお兄に……お兄にヒナのが……ハァハァッ」
うん、なんでヒナさん。
顔を赤らめて、モジモジしてるのかな。
なんにせよ。
何か言い訳をしなければならない。
さもなくば、ヒナという変態に変態のレッテルを貼られてしまう。
それは嫌だ!
絶対に嫌だ!
などなど。
直江が考えていた。
まさにその時。
「直江さん……私、もうダメかもです」
と、平均台に腰掛け、うつむいているクロ。
彼女はそのまま直江へと続けてくる。
「知らない人に見られました……しかも、この至近距離で。おまけに、その子――うちの学校の中等部の制服きてます」
「あ、この子――っていうか、こいつは」
「至近距離で見られる。そして、同じ学園の生徒……言いふらされないわけがあるだろうか……いやない!」
これは面倒くさい状況になった。
一刻も早く、クロを慰めて上げなけれ――。
「ハァハァ……お兄。お兄が……ヒナのを……ッ」
「終わりました! もう終わりました! 何もかも終わりです!」
と、直江の思考を断ち切る様に聞こえてくる二人の声。
当然、それはヒナとクロのものだ。
「…………」
これは、非常に面倒くさい状況になった。
とりあえず、直江はゆっくり立ち上がるのだった。