第三十二話 放課後の魔王様④
「違います! もっと、私が夕日を背負っている感じで――こう、さすらってる感じでお願いします!」
と、言ってくるのはクロ。
現在、彼女はジャングルジムの上に立っている。
そして、直江はというと。
カシャ。
カシャカシャ。
そんなクロを、ひたすらスマホのカメラに収めていた。
だがしかし。
(うーん、要望通りに写真を撮るのって結構難しいな)
クロが言った通り、太陽を背負っている感じにしようとすると。
逆光でクロの表情が、見えなくなってしまったりするのだ。
ひょっとすると、そういうのを防止する機能が、スマホにはあるのかもしれない。
けれど、普段からスマホのカメラを使わない直江。
彼にはそれがわからない。
(でも、弱音を吐いてなんていられない! クロの活動に協力するっていうのは、僕の方から約束したことだ)
それに、クロはこの活動を他人に見られるのを、極端に嫌っている。
にもかかわらず彼女は現在、直江の前で色々ポーズを取っている。
それはつまり。
(クロは僕のことを、信頼してくれてるんだ)
その信頼には答えなければならない。
先輩として、右腕として。
よし。
と、心の中で一言。
直江は再びスマホのカメラでクロを取りまくる。
…………。
………………。
……………………。
さてさて、そうしてしばらく経った頃。
トテトテジャングルジムから降りてくるクロ。
そんな彼女は直江へと言ってくる。
「直江さん! 次はあっちの平均台です! 私が魔王のポーズを決めるので、それを撮ってください! アングルはその都度、私から指示を出します!」
心なしか、クロは鼻息荒い。
きっと、楽しすぎて興奮してくれているに違いない。
直江にとってもそれは嬉しい事だ。
などなど、考えている間にもトテトテ。
クロは平均台の上に乗り――。
ズビシ!
手をおかしな形にし、顔の前に翳す。
どうやら、これが魔王のポーズに違いない。
そんなクロは直江へと言ってくる。
「さぁ! 直江さん、撮ってください! 最初は正面からで!」
「了解、魔王様!」
「おぉ! 悪くないです! 悪くないですよ、直江さん!」
カシャカシャ。
カシャカシャカシャ。
「次はちょっと斜めからで! その次はポーズを変えて目線を送るので、直江さんの感性に任せます!」
と、言ってくるクロ。
彼女はやはり楽しそうだ……が。
ぶっちゃけ、なんだか直江も楽しくなってきた。
楽しんでいる人と遊んでいると、なんだか自分も楽しくなる。
それは人間の性に違ない。
となれば。
「オーケー、魔王様! 僕に任せてください! 撮りましょう! 世界を支配できるほどの一枚を! 僕の……僕達の手で!」
「く、クク……クハハハハハハハっ! よい、よいぞ直江よ! この我の美しさ、そして強さを際立たせる至高の一枚――生み出してみせるがいい!」
今日一。
かっこいいポーズを取る魔王様。
「うぉおおおおおおおおおおお! 魔王様かっけぇええええええええええ!」
なんだかマジでテンション上がってきた。
もう、手加減なんてしていられない。
直江は服が汚れるのも気にせず、地面に寝ころぶ。
そして、魔王様を超絶下からアングルで取りまくる。
カシャカシャ。
カシャカシャカシャ。
「いいです! いいですよ魔王様! 最高に輝いてます!」
「クハハハハハハハッ! よい、もっと取るがよいぞ!」
と、ノリノリのクロ。
無論、直江もノリノリ。
楽しい。
楽しい楽しい。
「行きます、魔王様! これが最後――これが僕に出せる全力! 最強の一枚を今この手――」
「お兄……何してるの?」
直江の背後から聞こえてくる声。
間違いない……それは……ヒナの……声だ。