第二十八話 今日も部活は平和です?
時は変わらず放課後。
場所は部室。
現在。
ピコピコ。
ピコピコピコ。
直江はクロと並んで、ゲームをプレイしている最中だ。
ようするに、いつも通りの日常が帰って――。
「うぅ~~~~~! あぁもう!」
と、聞こえてくるのは柚木の声だ。
彼女は直江の隣――クロが居るのとは反対サイド。
直江の肩にもたれかかっている甘々モードの綾瀬へと言う。
「どうしてさっきから、部長はそんなに直江にくっついてるんだ!」
「どうして? 直江が好きだからよ」
「なっ!?」
と、亜然とした様子の柚木。
綾瀬はそんな彼女へと言う。
「どうしてといえば……どうして、柚木はそんなことを気にするのかしら?」
「ど、どうしてって、そんなの――」
「あんたは恋愛にも興味なし、性知識もゼロ……そんな感じで過ごしてるじゃない? まさか、本当は――」
「あ、あははは! ち、違う違う! あ、あたしはただその……や、焼きもちだ! あたしはその……無自覚系幼馴染だからな!」
柚木。
若干、言っていることが滅茶苦茶だ。
というか、最近柚木について気がついたことがある。
(焦ったりすると、結構ボロだすよね。でも、今までそれに気がつかなかった僕って……ひょっとすると、かなり鈍いのかな)
なんだかショックだ。
と、考えていたその時。
「直江……そこジャンプよ」
と、言ってくるのは綾瀬だ。
彼女は直江の肩に頭を預け、直江の腕に自らの腕を絡めてくる。
そして、そんな状態で言葉を続けてくる。
「直江? わたしのアドバイスに従ってよかったでしょ?」
「え、あぁまぁ」
「直江はわたしと居ると、全部上手くいくの。だから直江、全部わたしに任せなさい。食事、トイレ、お風呂……何もかも管理してあげるわ」
「…………」
うん。
それって、あれだよね。
どう考えても――両手両足縛って監禁させろってことだよね。
綾瀬、まったく反省してない。
もっとも。
(この前みたいに、すぐに暴走しないだけまだ――)
「な、直江!」
と、直江の思考を断ち切る様に聞こえてくるのは、柚木の声だ。
彼女はクロを押しのけ、直江の隣へと腰を下ろしてくる。
そして、彼女は胸元を見せながら、言葉を続けてくる。
「た、大変なんだ! 服の中に飴玉が入っちゃったんだ! 取ってくれ~~!」
「…………」
そんなわけあるか!
けれど、柚木の若干抜けているとこを考慮すると、普通にありえるんだよな。
と、昔の直江なら思った……が。
(うん、絶対にわざとだよね。これ、抜けてる無自覚幼馴染キャラを演じてるよね)
などなど、直江が考えている間にも。
柚木は直江へ、言葉を続けてくる。
「直江~! お願いだ、早く取ってくれないと、べたべたしちゃう! そうなったら、本当に大変な――」
「あらそう。じゃあ、わたしが取ってあげるわ」
と、聞こえてくるのは綾瀬の声。
直後。
ズボ。
ワシッ。
ポイ。
飴玉は飛んで行った。
綾瀬がゴミ箱へシュートしたのだ。
ニコニコ。
ニコニコニコ。
あぁ。
直江を挟んで交わされる、綾瀬と柚木の視線の応酬よ。
と、直江がそんなことを考えたその時。
「不戦協定はどうしたんですか」
ボソリっと、聞こえてくるのはクロの声。
その瞬間。
「柚木。この前、わたしが話したカフェを覚えてるかしら? あれがようやくオープンしたんだけど――」
「誘ってくれるのか!? 行く! あたしは部長と出掛けるの好きなんだ! オシャレなお店も知ってるし、一緒にゲーセンでゲームしてくれるからな!」
と、一転してそんな会話をし始める綾瀬と柚木。
正直、怖い。
(え、不戦協定ってなに!? いや、柚木と綾瀬が普段から仲良くて――二人で遊んでるのは知ってたけど……)
どうして不戦協定って言葉を聞いた途端。
急に仲良しモードになるのか。
闇を見た気がする。
(まさかずっと前から、綾瀬と柚木の二人は互いの本性を知ってた? それで……自分で言うのはアレだけど、僕への好意を理由にした喧嘩をしない約束をしてるなんてこと――)
あるわけないか。
そんなアニメやドラマみたいな事。
そもそも、本当にそうだとしたら。
クロがそれを知っている理由が不明だ。
と、直江がそんな事を考えたその時。
「直江さん。放課後、昨日の件のお付き合いをしてくれますか?」
クロがそんな事を言ってくるのだった。