第二十六話 直江、ゲームをしましょう?③
「~~~~~~~~~~~~♪」
ガシャ。
「~~~~~~~~~~~~♪」
ガシャガシャ。
ガシャガシャガシャ。
現在、直江は綾瀬の鼻歌聞きながら、椅子に座っている。
しかし、ただ座っているわけではない。
両手両足に手錠。
さらに、それぞれ別の手錠で椅子に固定されている。
要するに、オワタ。
さてさて。
直江がそんな事を考えている間にも、準備が整ったに違いない。
「じゃあ直江、本格的にゲームを始めましょう」
と、言ってくるのは綾瀬だ。
直江はいい加減、そんな彼女へと気になっていることをぶつける。
「いや、待って下さいよ! どうして部長は、僕にこんなことするん――」
ガシッ!
と、物凄い力で掴まれる直江の両肩。
そして、掴んだ本人こと綾瀬。彼女はそのまま続けてくる。
鼻先が触れそうなほどの至近距離で。
「直江のためよ? 全部全部ぜーんぶ、あんたのため。わたしがあんた以外のために、こんな事するわけないでしょ?」
「い、いや……そうじゃなくて、どうして手錠をするのかって――」
「直江のためよ?」
と、言ってくる綾瀬の瞳。
それは彼女の髪と正反対に、淀んでいるように見える。
(だ、だめだ……話がまったく成立しない)
いったいいつから、綾瀬はこうなってしまったのか。
いや、わかっている。
あの日記によると、最初からだ。
綾瀬は最初から、チャンスを伺い……自分を押し殺してきたに違いない。
そしてあの時、ついに我慢が出来なくなったに違いない。
「じゃあ最初のゲームを始めましょう」
と、直江の思考を断ち切るように聞こえてくるのは、綾瀬の声。
彼女は直江の周囲をゆっくり歩きながら、言葉を続けてくる。
「あんた……あの日、わたしの部屋で何か見た?」
この質問は重要だ。
綾瀬が言っているのは、あの日記。
そして、写真のことに違いない。
全てをなかったことにし、綾瀬との関係をリセットするならば。
答えるべきは一つ。
「み、見てませ――」
「なんで、嘘つくの?」
ヒタリ。
と、直江の首に背後から両手を回し、言ってくるのは綾瀬だ。
うん、これはなんかやばいね。
直江はすぐさま、綾瀬へと別の回答をする。
「み、見た見た! あれでしょ!? 僕との出会いが書かれた日記! あとアレだよね!? 山の様にある僕の写真!」
「……正解! さすが直江、わたしにとって唯一無二の男ね」
「……それで、ゲームはもう終わ――」
「次のゲームをしましょう――直江はそれをみて、どう思ったの?」
「…………」
これは、あれだ。
正直に言った方がいいに違いない。
この数分で理解した――綾瀬は嘘つくとやばいタイプだ。
「こいつやばい。滅茶苦茶怖いと思いました……」
「……うっ」
と、何やら言ってくる綾瀬。
彼女はスタスタ、直江の前へ歩いて来る。
そして、彼女はそのまま彼へと言葉を続けてくる。
「ぐすっ……ど、どうしてよ! わたしは直江の事が好きなだけ! 直江を愛している、直江と一緒に居たい――そんな気持ちが、ほんのちょっと溢れただけ!」
「お、おぉふ」
綾瀬さん。
ここに来てまさかのガン泣きだ。
直江はそんな彼女へと言葉をかけようとする……が。
それより早く、綾瀬はへたり込み言葉を続けてくる。
「お、おねが――っ。なお、え……うっ、えぐっ……わたしのこと、きらっ、に――なら……えぐっ――いで! わ、わたっ――あ、っんた! れたら――うぐっ」
「ちょっ、泣かないでくださいよ!」
「うっ……だ、だってぇえええええええええっ!」
正直に言おう。
綾瀬、泣きすぎてもはや何言ってるかわからない。
なんにせよ。
(と、とりあえず……綾瀬が可哀想なのはたしかだ。放置しておくわけにもいかないし、慰めてあげないと)