第二十一話 テンプレートな出会いはお好きですか?③
「昨日の夜な~、公園で直江の匂いがした気がしたんだ!」
と、言ってくる柚木。
直江はそんな彼女へと言う。
「僕の……匂い?」
「そうそう、直江のにおい~……あ、あと気配と声も聞こえた気がした!」
「…………」
柚木はあれかな。
野生動物とか、そういう奴の仲間なのかな。
なんにしても。
(この話題をこのまま続けるのは、よろしくない。柚木がそんな事するわけないと思うけど、万が一さっきの僕の嘘を追求されたら、何もかも露見して終わる)
であるならば。
ここで直江が取るべき行動は一つ。
秘儀、話題逸らしだ。
「ところで、柚木は……その、夜の公園で何してたの?」
「え!?」
ビクリとした様子の柚木。
彼女はどこか慌てた雰囲気で、直江へと言葉を続けてくる。
「あ、あたしは~……えっとその……」
「…………」
「ほ、ほらアレだよ……その~」
これは。
直江はとんでもないミスをしてしまったに違いない。
故に彼は柚木へと言う。
「ごめん、柚木を困らせるつもりはなかったんだ」
「え、あ……っ! な、直江!」
と、直江の腕をパージしながら言ってくる柚木。
彼女は直江の前に回り込んで来ると、そのまま言葉を続けてくる。
「あ、あたしは確かに夜の公園に居たけど、別に変な事をしてたわけじゃない! だから、これだけは信じてくれ! あたしは……その、直江を裏切るような事はしてない!」
「裏切るだなんて、いつも大げさだな柚木は」
「で、でもでも! あたしは直江を心配させたくないんだよ~!」
「はいはい」
わしゃわしゃ。
と、直江は柚木の頭をなでなでする。
すると――。
「うぅ~、直江~!」
と、抱き着いて来る柚木。
やはり、いつも通りの流れだ。
だがしかし。
直江は見てしまった。
直江が頭を撫でた直後。
柚木が抱き着いてくるまでの一瞬。
普段なら知覚できない刹那。
『計画通り』
柚木の口が、たしかにそう動き。
ニヤっと笑ったのを。