第二十話 テンプレートな出会いはお好きですか?②
「朝から直江とぶつかっちゃった……えへへ、なんだか照れるな!」
と、ニコニコ言ってくるのは柚木だ。
彼女はそのまま、直江へと言葉を続けてくる。
「直江、おはよう!」
「ああぁ……うん、おはよう」
「今から学校行くんだよな? 一緒に行こ! あたし、トースト食べながら歩くから、直江がエスコートしてくれよ!」
と、腕を絡めてくる柚木。
いつもの柚木だ。
トースト食べながら登校。
そんなアニメキャラかと思う程のレア行動。
照れた様子もなく、身体を密着させて来る。
そんな無意識系幼馴染キャラ。
信じられるか?
これ、狙ってやってるんだぜ?
しかも、柚木の場合はずっとだ。
直江と出会ってから、今日まで毎日かかさず。
(凄まじい執念を感じる……でも、そんなに僕に好かれようとしてくれるって、そういうことだよね)
だとしたら、直江はとても幸せに違いない。
などなど、直江が考えていたその時。
「あ、そうだ。ところで、直江! 昨日の夜って、どこにいたんだ?」
と、はむはむトーストを食べ終え、言ってくる柚木。
正直、直江はその質問で心臓が止まりそうになった。
なぜならば。
(き、昨日は……公園で柚木が不良たちと話しているのを見ていた。っていうか、柚木が不良たちのトップっていうのを、知っちゃった日だけど……)
猛烈な勢いで、全身に汗が出てくる。
ゴクリと、唾をのまずにいられない。
呼吸が苦しい……だが、聞くしかない。
「な、なんでかな?」
「ん~、直江さ……公園の近く、通ったりしてない、よな?」
と、確信的な柚木の返し。
直江は即座に、そんな彼女へと言う。
「通ってないよ! なんで!? 夜だよね!? 僕が学校から帰ったのは夕方だよ? 夜に公園を通るわけないよ! あ、でもそういう意味では、夕方くらいには公園通ったかな! 夕方のちょっと夜よりの時間帯! だから、まぁ夜に通ったとも言えなくもないけど! 殆ど夕方だから、夜の公園は行ってないよ! それに、この辺ってほら! 夜は不良が出るらしいから、あんまり……ね。柚木も夜は出歩かない方がいいよ! っていうかさ、どうして柚木は僕にそんな質問したの!?」
「お、おぉう」
と、なんだか亜然とした様子の柚木。
彼女は再び、直江の腕をきゅっとしてくる。
そして、彼へと言葉を続けてくる。
「今日の直江、なんだか元気だな! おまえが元気だと、あたしもとっても嬉しい!」
「あ、あはは……そう、かな!?」
「当り前だろ~! あたしがおまえのこと、見間違うはずがない!」
柚木のそんな言葉。
それは普段言われたら、とても嬉しい。
だが、今に限っては。
『当たり前だろ。おまえが嘘をついても、あたしは全部お見通しだ』
と、言われている様にしか思えない。
無論、それが直江の妄想だということは理解しているのだが。
などなど、直江が考えていると。
「それで、さっきの直江の質問だけど……」
と、言ってくる柚木。
彼女は直江へと言葉を続けてくるのだった。
「昨日の夜な~、公園で直江の匂いがした気がしたんだ!」




