第十八話 お兄……おはよう③
さてさて、現在。
ヒナはようやく落ち着いてくれた。
直江は今も寝たふり継続中なわけだが。
(ヒナの奴、まさかだけど……毎日毎朝、毎回こんなことしてるんじゃないよね?)
だとしたら相当に精神的ダメージがでかい。
けれど、ヒナはたしかにこう言っていた。
『お兄……今日も寝てる。毎朝、ヒナに気がつかなくて、本当に可愛い』
うん。
カノウセイダイダネ。
これからは、自分で起きること。
それが重要なのかもしれない……そうすれば、この事態は発生しないのだから。
と、直江がそんな事を考えていると。
ゆさゆさ。
ゆさゆさゆさ。
「お兄……朝」
と、聞こえてくるヒナのいつもの目覚ましボイス。
それに従い、直江は寝たふりを中止、目をゆっくりと開ける。
すると。
「お兄、目……クマがある……寝不足?」
と、心配そうなヒナの声。
直江は身を起こしながら、そんな彼女へと言う。
「ちょっとね。でも大丈夫、それほど眠くないし」
「……心配。ヒナ、もしお兄が倒れたら……ショックで倒れる」
「あはは、ヒナはいつも大げさだな」
「ヒナはお兄が好き……だから、心配するのは当たり前」
と、優し気な微笑みを浮かべてくるヒナ。
いつも通りだ。
そう。
ザ・いつも通りの兄妹トーク。
だがそれが恐ろしい。
正直今、直江は背骨が氷柱に変わったかのような戦慄を覚えている。
なぜならば。
(あ、あんなことあった後でも、このテンションで喋るんだ……ヒナ)
い、いや……理論はわかる。
毎日毎朝、ヒナは直江の元に、十五分前にやって来る。
そして一人で何かした後、何食わぬ顔を装って直江を起こす。
何度も繰り返しまくれば、そりゃあ慣れるというものだ。
表情や仕草、感情に変化が出ないほどに。
だからこそ、直江はヒナが恐ろしい。
もはや、ヒナが日常的にどこで何しているかわからない。
彼女のこの様子では、直江がそれを外面上で判断するのは不可能なのだから。
「…………」
「お兄……なんだか、顔色が悪い」
と、聞こえてくるのはヒナの声。
同時、おでこに当てられるのは、ヒナのひんやり柔らかな手。
「熱はない……でも、様子が変……お兄、今日学校休む?」
と、再び言ってくるヒナ。
直江はそんな彼女へと言う。
「だ、大丈夫! 学校行く!」
「……? お兄、そんなに学校好きだっけ……もし休むなら、ヒナ特性のヒナ印おかゆ……作ってあげるけど」
出た。
ヒナ印おかゆ。
直江が風邪をひくと、毎回ヒナが食べさせてくれる料理。
とても美味しく、食べると体が熱を持ってくるのだ……ホカホカと。
うん。
(昨日までは、普通にありがたいと思って食べてたけど。今となっては、何か入ってそうで怖い……愛情以外にも色々が……)
それに、本当に体調が悪いわけではない。
故に、直江はヒナへと言うのだった。
「と、とにかくそろそろ起きて、朝ごはん食べて……それで学校に行くよ」
「ん、わかった……あとお兄、今日の朝ごはん……ヒナが作った」
と、もじもじ頬を赤らめるヒナ。
なるほど。
(作ってくれるのはありがたいんだけど……どうしてそんな仕草をするのかな)