第十七話 お兄……おはよう②
「お兄……今日も寝てる。毎朝、ヒナに気がつかなくて、本当に可愛い」
と、聞こえてくるのはヒナの声。
そんな彼女は寝たふり中の直江へ、言葉を続けてくる。
「ほら……お兄。ヒナね、こんな事してる……お兄が起きたら……大変なのに」
いったい何をしているのか。
気になるところだが、ここはヒナを信じよう。
そうだ。
(きっとヒナのやつ、僕の部屋にあるゲームを勝手にやってるんだろうな)
ヒナは昔から、何故か自分のゲームではなく。
直江のゲームをプレイするのが好きなのだ。
もっとも、それはゲームに限らずすべてにおいてだ。
(昔よく、自分のプリンがあるのに『お兄のプリンがいい』って駄々こねていたっけな……今からすると、いい思い出だよね)
などと考えている間にも、ヒナの言葉は続いている。
そして、いよいよ彼女は致命的ことを言ってくる。
それは――。
「お兄……ヒナ、ね。お兄のことが……大好きなんだよ?」
この時点で、直江に大ダメージ。
だが、彼女の攻撃はまだ終わらない。
「ヒナ……お兄じゃないと、ダメ。お兄以外だと……恋愛対象に見れない。お兄が一番……かっこいい」
なるほど。
直江は勘違いしていた。
そもそも『お兄』とはなんだ?
本当に直江のことなのか?
(いやぁ~我ながら恥ずかしいな……変な勘違いしちゃって!)
きっとヒナは『お兄』ではなく、『鬼〜』と言っているのだ。
つまり、ヒナは鬼の熱狂的信者。
直江とは無関係なのだ。
「…………」
そういうことにしておこう。
と、直江は心の中でため息をつくのだった。