第十六話 お兄……おはよう
「…………」
結論から言う。
直江はあの後、まったく眠れなかった。
クロと柚木はまだいい。
綾瀬とヒナの事を考えすぎて、眠気がさよならバイバイした。
ギラギラした目で、枕元の時計を見てみると。
「六時四十五分か……いつもなら、七時にヒナが起こしに来るから……」
今、最速で寝たとしても、十五分しか寝られない。
これはもう、いっそ寝ない方がいいに違いない。
(でも、それはそれで怖いんだよね)
直江がそう考える理由。
それは簡単だ。
例えば、部室などで眠ってしまうとしまう。
綾瀬がやってきたとする。
その際、近くに誰もいなかったとする。
終わりだ。
(っていうのは、僕の考えすぎかな……うん、考えすぎだ。そういうことにしておこ――)
と、直江がそこまで考えた。
まさにその時。
ガチャ。
聞こえてくるのは、直江の部屋の扉が開く音。
きっと、ヒナが直江を起こしに来たに違いない。
「っ」
咄嗟に、直江は寝たふりをしてしまう。
なんだか、ヒナと顔を合わせるのが気まずかったからだ。
と、ここで直江は、ふと妙なことに気がつく。
(あれ……ヒナの奴、起こしに来る時間がいつもより早い気がする)
ヒナは毎朝、必ず七時に起こしてくれる。
一緒に住むようになってから、一日たりともずれたことはない。
にもかかわらず。
(さっき見た時計がズレてない限り、今の時刻は六時四十五分少し過ぎ……やっぱり早すぎる)
嫌な予感がする。
昨日のヒナがしていた事が、脳内にフラッシュバックする。
寝たふり……しない方がよかったのでは。
直江はすぐにそれに思い至る。
しかし。
「お兄……今日も寝てる。毎朝、ヒナに気がつかなくて、本当に可愛い」
そんなヒナの声が、聞こえてくるのだった。