第百二十七話 ハラハラ爆弾デート
時はあれから数分後。
場所は公園付近の道。
「~~~~~~~~♪」
と、ご機嫌な様子で鼻歌モードなのは綾瀬だ。
彼女はすっかりスイッチオフに違いない――まるで『綺麗で優しい先輩だけど今だけ後輩の彼氏君に甘えちゃいます』といった様子で、直江の腕に抱き着いて来ている。
(ずっとこうで居てくれると、僕の方から告白しそうなんだけどな……)
スイッチオフの綾瀬は性格もいいし、とても綺麗で可愛くて。
本当に完璧だ……だがしかし。
「直江?」
ぎょろっと、突然直江の方へと視線を向けてくる綾瀬。
彼女は底の見えない暗い瞳で、そのまま直江へと言葉を続けてくる。
「今、何を考えていたの?」
「え?」
「今、上の空だったわ。わたしが直江に甘えていたのに、どうして上の空だったの?」
「いや、誤解だっ――」
「嘘! 嘘よ!」
言って、ぎゅぅぅううっと直江の腕を強く抱きしめてくる綾瀬。
彼女はそのまま、狂気を感じさせる様子で直江へと言ってくる。
「他の女のこと……考えていたの?」
「それは本当に違うって!」
「誰? 誰の事を考えていたのねぇ誰? あんたの心にチラついているのは誰? 大丈夫よ! そう、大丈夫! わたしがあんたの事を守ってあげる。だから……わたしに言ってみなさい?」
「…………」
「言いなさい。早く……ねぇ、言いなさいよ!」
「綾瀬のこと」
「わた、し?」
と、やや狂気をひっこめた様子の綾瀬。
直江はそんな彼女へと言う。
「今日の綾瀬、なんだか可愛いなって。そう考えてた」
嘘は言っていない。
というか、むしろ本当の事しか言っていない。
「直江」
と、言ってくる綾瀬。
彼女は直江の腕に頬をすりすり、まるで猫のように言葉を続けてくる。
「好き……わたし、あんたの事が好き。愛してるの……だから飼っていい?」
「飼うのはダメかな」
「じゃあデート」
「デートはいいよ」
「好きよ、直江♪」
すりすり。
と、相変わらず猫猫綾瀬。
よし。
綾瀬のやばい導火線に火を付けないように、今日は精一杯楽しもう。