第百二十六話 勘違いから始まるデートまでカウント開始②
「わたしもよ……わたしもあんたのことが好き、この世界で一番――いえ、この宇宙で一番誰よりも愛しているわ」
言って、直江の手を両手で包み込むように握りながら言ってくる綾瀬。
そんな彼女の表情は、まるで夢見る乙女のようだ。
「……うん」
と、直江はゆっくりと頷く。
そして、一旦冷静になって考えてみる。
(さっきの会話の流れで、どうしてこうなった?)
いや、わかる。
綾瀬検定一級の直江にはわかるはずだ。
(きっとさっき言った『綾瀬助かる』的な発言だ――あれが原因だ!)
綾瀬の脳内にある『超絶曲芸変換辞書』。
それによって先の一言が、彼女の中でこう変換されたに違いない。
『綾瀬。さっきは本当に助かった。僕には綾瀬が居ないとダメだ。好きだ――愛している、結婚しよう』
間違いない。
さぁ、成否はいかに。
と、直江がジッと綾瀬の目を見つめると。
「えぇ……結婚しましょう、直江」
と、言ってくる綾瀬。
要するに。
(ですよねぇええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!)
あまりよろしくない方向に正解してしまった。
とりあえず、綾瀬の勘違い――というか、思い込みを何とかする必要がある。
「あ、あのさ綾瀬」
「何かしら、直江?」
と、直江の言葉に対し返してくる綾瀬。
直江はそんな彼女へと言う。
「さっきのは別に告白ってわけじゃ――」
「なんで?」
「え?」
「なんでそんな酷い事を言うの?」
「っ――」
しまった。
綾瀬を傷つけてしま――。
「直江の意思じゃない。言わされてる言わされてる誰かに言わされてる」
と、頭を掻き毟り出す綾瀬。
彼女は片足を地面に何度も打ち付けながら、言葉をさらに続ける。
「ヒナ?! 柚木!? それともクロ!? ダメ、ダメよ……やっぱりダメ。直江にこんな事を言わせるなんて、もう放ってなんておけない! みんな排除しないと……直江の傍からみんな、みんな! いいえ、そうよ……それより、直江を監禁すればいいのよ。スタンガンはあるし……いま、ここでっ!」
「で、デートしよう!」
と、直江は綾瀬の言葉を断ち切る。
すると、パッと直江の方へと顔を向けてくる綾瀬。
このままではまずいと思った故、とっさの作戦だ。
要するに。
(デートで気を逸らして、綾瀬のやばいモードスイッチをオフにする!)
デートならば、彼氏彼女でも行うもの。
と、広義の意味では捉えられるため、後からフォローも可能。
直江及びヒナたちの安全を考えるならば、致し方なし。
完璧だ……多分!
などなど。
そんな事を考えた後、直江は綾瀬へと言う。
「それでデート、どうかな? もしよかったらだけ――」
「する」
と、綾瀬さん。
即答だった。