第百二十五話 勘違いから始まるデートまでカウント開始
時はあれから数分後。
場所は綾瀬が待っている公園少し手前。
余談だが、ここに来るまでに綾瀬から二十回ほど電話がかかって来た。
なお内容はというと。
『遅い、今どこ?』
『直江、どうしてわたしを待たせるの?』
『直江? ひょっとして……わたしのことが嫌いになったの?』
『嫌……嫌ぁああああああああああああああああああっ! 直江に嫌われたらわたし……そんなの、そんなの――っ!』
とまぁこんな感じだ。
要するに、綾瀬さんは今日も元気に平常運転ということだ。
などなど。
直江がそんな事を考えている間にも場所は公園前。
「遅かったわね、直江」
と、聞こえてくるのは安心安全の綾瀬ボイス。
直江が声の聞こえてきた方へと視線を向けてみると、そこに居たのは――。
「わたしのために来てくれて、とても嬉しいわ」
と、ニッコリ笑顔の綾瀬だ。
先ほどの電話での絶叫が考えられない変わり身の早さ。
さすがとしか言いようがない。
と、ここで直江は大切な事を忘れていたと気がつく。
それは簡単だ。
「さっきはありがとう」
「さっき?」
と、直江の言葉に対し、ひょこりと首をかしげてくる綾瀬。
直江はそんな彼女へと言う。
「電話越しでしか言えてなかったからさ――ほら、さっきヒナに追い詰められた時に、僕の事を助けてくれたでしょ?」
「…………」
「あの時、本当に助かった。だから、改めてありがとう」
もしもあの時、綾瀬が助けてくれなければどうなっていたか。
想像すると今でも足がガクガクと震えてくる。
きっとヒナの事だ。
確実に直江を襲ってくる。
以前も考えた事だが。
ヒナは現在、全力で自制している状態に違いないのだから。
(ヒナはやばいけど、最低限の常識を持ち合わせている)
きっとヒナはこう考えているのだ。
――直江を性的に見ているのがバレれば、直江に嫌われるかもしれない。
――欲望通り動けば直江に迷惑がかかるかもしれない。
その辺が奇跡的にストッパーとなり、なんとかヒナは踏みとどまっているに違いない。
まぁ、それでも隠れて直江をオカズにしたり、盗聴したり盗撮したりしてくるけど。
(あと、僕の下着が日に日に減っている気がする……)
ヒナの部屋を掃除した際、直江の下着は発見できなかった。
しかし、まだ油断はできない。
なんせ、ヒナの部屋を掃除しつくした……とは言えない状況なのだから。
例えば。
ヒナの勉強机の中から、直江の下着が『こんにちは』
それは十分にあり得――。
(ん? あれ? そういえば、綾瀬がすごく静かな気がする)
そのため、すっかり考え込んでしまった。
いつもの綾瀬ならば、こんなに静かな事はない。
だいたいいつも直江に――。
「直江」
と、直江の思考を断ち切る様に聞こえてくる綾瀬の声。
彼女は続けてガシッと、直江の手を両手で包み込むように握ってくると。
「わたしもよ」
「は、はい?」
と、直江は綾瀬の言葉が意味不明すぎ、思わず問い返す。
すると、綾瀬は悟りきったような――優しい笑みを浮かべて、直江へと言葉を続けてくるのだった。
「わたしもよ……わたしもあんたのことが好き、この世界で一番――いえ、この宇宙で一番誰よりも愛しているわ」
なるほど。
どうしてこうなった。