第百二十三話 直江はヒナの秘密を見つけてみる5
「綾瀬さ、なんで僕がヒナの部屋で、ピンチだったの知ってるの? 知ってたから、ヒナに電話できたわけだよね?」
『…………』
おかしい。
綾瀬の反応がない。
そこで、直江は再び綾瀬へと言う。
『えっと……綾瀬、聞こえてるよね? どうして綾瀬は僕がピンチなのわかったの?』
『…………』
「綾瀬さん?」
『…………』
綾瀬さん、完全に沈黙状態だ。
まさか、まさかとは思うがこれ。
ひょっとして。
「綾瀬、僕の部屋だけじゃなくて、ヒナの部屋にもカメラと盗聴器しかけて――」
『あぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!!!!』
と、直江の脳に突き刺さる綾瀬の発狂ボイス。
何が起こっているのかは不明だが、鼓膜がないなったのはわかった。
などなど。
直江がそんな事を考え、耳をもみもみ痛みを和らげていると。
『どうして!? どうして直江はそんな事を聞くの!?』
「え、いや僕はただ事実を――」
『疑わないで! 好きなの! わたしはあんたの事が好きなだけ! だから心配なの! ヒナは妹だけど、あんたの傍に女が居るってだけでわたしは心配なの!』
「つまりそれって、カメラと盗聴器をヒナにも――」
『直江直江直江直江直江直江直江直江直江直江直江直江直江直江直江直江直江直江直江直江直江直江直江直江直江直江直江直江直江直江直江直江直江直江直江直江直江直江直江直江直江直江直江直江直江直江直江直江好きなのあんたが好きなだけそれってイケナイ事なの心配するのはダメなのわたしは不安なのあんたが誰かに取られないか心配で居ても立ってもいられなくなるもし許されるならあんなたの周りの女を全員この世界から消し去りたいくらいもし可能なら他の人間すらいらないあんたとわたしの二人だけでいいこの世界はそれだけでいいだからわたしを疑ったりしないでお願いわたしを信じてわたしの傍にいてわたしを不安にさせないで他の女の名前を口にしないで一緒にいたい一緒にいたい直江と一緒にいたい結婚したい子供作りたい直江直江直江好き好き好きわかってくれるわよね直江わたしがあんたをどれくらい好きかあんたならわかってくれるわよねわかってくれないとおかしいわだってわたしはあんたをこんなにも愛しているんだものじゃないとおかしい直江がわたしを疑うのもおかしいおかしいおかしいおかしいこんなこんなのこんなのこんなのぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!』
「……うん」
これはあれだ。
綾瀬のスイッチが入ってしまったようだ。
こういう時の対処法は一つ。
「綾瀬」
『――っ』
ピタリと止まる綾瀬の発狂ボイス。
直江はそんな彼女へと、優しくゆっくり言葉を続ける。
「そういう綾瀬も可愛いよね!」
『…………』
「…………」
『……好きよ、今すぐ会いに来て』
同時、ぷつっと切られる通話。
どうやら綾瀬神を鎮める事に成功したようだ。
とはいえ、落ち着いて居られる状況ではない。
なんせ、こうしている間にもヒナが戻ってくる可能性は高い。
(とりあえず、ヒナが盗聴器を保有しているって情報は得た。目的は達成したわけだし、さっさとここから撤退しないと)
それに、今は綾瀬の言う通りにしないとヤバい。
何がどうヤバいかは、よくわからないが――直感的に感じる。
綾瀬の所に迅速に行かなければ、直江にとんでもない災厄が発生する。