第百二十三話 直江はヒナの秘密を見つけてみる4
「……仕方ない、よね」
直江はゴクリと唾を飲んだ後、ゆっくりと電話に出る。
すると。
『何か言う事は?』
と、聞こえてくるのは、やや高圧的な綾瀬の声。
直江はそんな彼女へと言う。
「え、えっと……なんのことかな?」
『あらそう、じゃあヒナにもう一度電話させてもらうわ――やっぱり用がなくなったって』
「っ!?」
正直、少しそうではないかと予想していた。
要するに。
先ほどヒナが出て行った理由――それが綾瀬なのだ。
(そういえば、ヒナが電話で呼び出し受けて部屋から出て行ったとき、『お姉がどうの』と言ってたもんな)
そして、ヒナの言うお姉とは、当然綾瀬の事だ。
などと、直江はそんな事を考えた後、再び綾瀬へと言う。
「ひ、ヒナに電話して、僕に向いている注意を逸らしてくれてありが、とう」
『どれくらい感謝しているの?』
「え……結構、かな」
『結構ってどれくらい?』
「えっと、両腕を大きく広げたくらいかな」
『……ヒナに用事はもうないって、もう一度電話するわ』
「ちょ――っ! う、嘘だよ! 僕は綾瀬にすごく感謝してるよ!」
『どれくらい?』
「う、宇宙くらい! 未だ広がり続けているという、宇宙よりも深く大きく感謝してる!」
『…………』
と、何も言って来ない綾瀬。
いったいどうなったか。
先ほどの直江の言葉は、綾瀬判定を通過出来たのか。
もし通過出来ていなければ、ヒナが戻ってくる。
そうなれば、今度こそ直江がベッドの下に隠れているのは、バレるに違いない。
それだけはまずい。
直江がヒナの好意に気がついている事を、彼女が知れば……終わる。
ヒナは確実になりふり構わなくなるからだ。
だから――。
「あ、綾瀬……さん?」
今は何としてでも、綾瀬のご機嫌を取る。
などと、直江がそんな事を考えていると。
『わたしの事、どれくらい好きなのかしら?』
「そ、それは――」
『ヒナに電話、したくなってきたわ』
「う……っ」
『直江、正直に言っていいのよ?』
「こ、言葉で言い表せない、くらい……す、好きです」
『誰を好きなの?』
「あ、綾瀬」
我ながら、いったい何を言っているのだ。
これはどんなプレイだ。
というか、今更ながらに気がついたことがある。
直江はそれを綾瀬へと問うために、彼女へと言葉をかけようとした。
まさにその瞬間。
『今の録音したわ』
と、直江の思考を裂くように聞こえてくる綾瀬の声。
直江はそんな彼女へと言う。
「え、何してんの!?」
『あんたからの愛の告白、わたしの宝物にするわ』
「いや、愛の告白じゃないからね!? 友達としての好きだからね!? というか、半ば脅迫気味に言わされたよね!?」
『つまりヒナ、あんたは仕方なくヒナ言ったの?』
「す、好きです……はい、本心です」
『誰が誰を?』
「直江は綾瀬さんが大好きです……」
『ふ……っ』
直江には見える。
綾瀬が電話の向こうで、ゾクゾク震えているのが。
というか。
綾瀬のせいで話が飛んだが。
「綾瀬さ、なんで僕がヒナの部屋で、ピンチだったの知ってるの? 知ってたから、ヒナに電話できたわけだよね?」