第百二十一話 直江はヒナの秘密を見つけてみる2
「ここには特に何もない、か」
あれから数分後。
現在、直江はヒナの机を物色し終わっていた。
(ノートに僕とヒナを主人公にした、ちょっとアレな妄想小説があったのは、少し頭が痛くなったけど)
とりあえず、盗聴器関連のものがなくて一安心。
とはいえ、捜索はまだ始まったばかり。
直江は机の引き出しを閉じる。
そして、彼はタンスへと視線を向ける。
「さすがに、妹のタンスを覗くのはまずい……か?」
しかし、直江はすでに踏み出してしまっている。
妹の部屋を物色するという魔道を。
ならば、最後まで進んだ方がいいに違いない。
直江がもしここで退けば、盗聴器の真相は闇に葬られてしまう。
それはダメだ――なんせ、それでもしヒナが本当に盗聴を行っているとしたら。
直江が注意することなく、ヒナを放置してしまえば……。
(ヒナが変態への道を、どんどん突き進む事になってしまう!)
要するに、これはヒナのためでもあるのだ。
直江は変態の汚名なんて怖くない――ヒナを救うためならば。
(よし……やってやる!)
などなど。
直江はそんな事を考えた後、タンスの方へと近づいていく。
そして、彼はその前でゆっくりしゃがみ。
…………。
………………。
……………………。
一気ににタンスの引き出しを引いた。
直後、直江の視界に映りこんできたのは……。
綺麗に可愛らしくたたまれた下着。
見てはいけない。
直江は頭ではそう理解しているが、目を離すことができない。
理由は簡単だ。
「こ、この柄は……」
直江はむんずっと、下着の一つを手に取る。
そして、彼は顔の前でそれを開いてみる。
「間違いない……っ。これは、このパンツは!」
直江のだ。
去年、干している時に行方不明になったものだ。
けれど、いったいどうしてそれがここにあるのか。
嫌な予感がする。
直江は次々に、下着を手に取る。
そして、それを同じく広げていく。
結果――。
「この引き出しにあるの……全部僕のだよね」
その全てが『直江が捨てた物』や『洗濯中に消えた物』だ。
しかも、中には直江が小学生の時に履いていた、ブリーフまで含まれている。
恐ろしいコレクションだ。
「よし」
やめよう。
ヒナがこのコレクションを、どう集めたのか。
どうやって使っているのか――それらを考えるのはだめだ。
きっと、それをすれば直江の精神は崩壊する。
直江はそんな事を考えた後、ヒナズコレクションを全て、タンスに詰めていく。
それなりに綺麗に畳んだので、きっとバレない……バレないといいな。
「お、おっほん!」
さて、気を取り直して次に行こう。
残る場所はベッドの下と、クローゼットだ。
(ベッドの下はスペース的にアレだし、先にクローゼットを調べようかな)
何かを隠すとしたら、クローゼットの奥と相場は決まっている。
直江はそんな事を考えた後、クローゼットへと近づいていく。
「さて、鬼が出るか蛇が出るか」
言って、直江はクローゼットを開く。
そしてその直後――。
ドドドドドドドドドドドドドッ!
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドッ!!
「ちょっ!?」
クローゼットから放出されたもの。
それは大量の写真だ。
「な、なにこれ――ぼ、僕の寝顔!?」
よく見れば、それだけではない。
直江のトイレ写真、直江の入浴写真、直江のピー写真。
他にも様々な直江がそこにある。
「あ、綾瀬だよね……綾瀬から貰ったんだよね、これ」
さすがに、ヒナが自分で撮ったとは信じたくない。
直江の妹様は、そこまで変態になってはいない……と思う。
「…………」
なんだか、頭痛が痛くなってきた。
腹痛も痛い気がする。
(このままヒナの部屋を探すと、もっとやばいの見つけそうだしな。今日はこのくらいにして、また今度探すでもいい、かな)
心折れ、直江がひよった。
まさにその時。
ギシッ。
聞こえてきたのは、階段を何者かが登って来る音。
ヒナだ。彼女が戻って来たのだ。
やばい。
直江は咄嗟に周囲を見回す。
すると、そこに散らばっているのは直江写真の数々。
「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」
直江は写真にダイブした。
そして、彼は身体全部を使って写真をクローゼットに押し込んでいく。
写真を隠さないとバレる。
ヒナに『直江がヒナの感情に気がついている』という事がバレる。
そうなれば、やばいどころではない。
ヒナは確実になりふり構わなくなる。
結果、直江はヒナに色々やばい事をされるに違いない。
それだけは全力でさける。
故に直江は写真を、クローゼットに突っ込みまくる。
だがしかし。
「な、なんだこれ!? どうやって入れてたんだ!」
入れても入れても溢れてくる。
片付けているのに、まったく進展している気がしない。
そうこうしている間にも。
ギシッ。
ギシッ、ギシッ。
ヒナの足音は、もう部屋の目の前だ。
終わる、終わってしまう。
ガチャッ。
直後、聞こえてくるのはそんな扉を開く音。
直江にとっての破滅の音だった。