第百二十話 直江はヒナの秘密を見つけてみる
時はあれから十数分後。
場所はヒナの部屋。
(よし、結構きれになってきたな。やっぱり、掃除の中で一番好きなのは『窓ふき』かな)
綺麗にすればするほど、窓はキラキラと輝く。
なおかつ拭いた時に――。
きゅっ。
きゅっ。
と、いい音がなるのだ。
これがどうしようもなく気持ちいい。
などと、直江がそんな事を考えていると。
「お兄……っ」
と、聞こえてくるのはヒナの声。
見れば、彼女はなにやらもじもじした様子で、頬を赤く染めている。
瞬間、直江はとんでもなく身の危険を感じた。
もじもじしている=興奮している。
頬を染めている=発情している。
(ま、まさか襲われる!?)
ヒナはまだまともな方だと思っていた。
少なくとも彼女、直江の意識がある内には、襲ってくるような奴ではないと。
しかし、よく考えてみれば兆候はあった。
まだ疑惑だが――ヒナは綾瀬に影響されて、盗聴器を直江の部屋に仕込んでいた。
ならば、性癖に対してもオープンになった可能性が――。
「お、お兄……っ」
と、直江の思考を断ち切るように聞こえてくるヒナの声。
彼女は息荒い様子で、直江の方へと近づいて来る。
「っ」
に、逃げなければ。
瞬時にそう感じた直江は、数歩後退する……けれど。
ガタッ。
と、感じる背中に何かがあたる感覚。
これは窓だ――要するに、直江には逃げる場所がなくなってしまったのだ。
「ひ、ヒナ……ま、待った! ちょっと待った!」
「ダメ……ヒナ、もう待てない」
「いや、我慢! ここではまずいって!」
「我慢……できないっ。お兄……ヒナ、ヒナは……もうっ」
と、なおも近づいて来るヒナ。
ダメだ……終わる。
きっと、これから直江はヒナに好き放題されてしまう。
綾瀬によって強化された彼女の性癖は、きっと無敵に違いな――。
「ヒナ……トイレ」
と、再び直江の思考を断ち切るように聞こえてくるヒナの声。
彼女はもじもじした様子で、彼へと言葉を続けてくる。
「ヒナ……これ以上我慢したら漏れる」
「…………」
「お兄が手伝いに来てくれたから、今まで申し訳なくて言い出せなかった……でも限界」
「…………」
「ヒナ……トイレ行って来ていい?」
ひょこり。と、首をかしげてくるヒナ。
なるほど、これは要するに。
(ひょっとして、僕って物凄く恥ずかしい勘違いしてた!?)
直江はヒナの裏の顔を知っている。
さらに綾瀬関連や盗聴器で、神経過敏になっていたというのもある。
とはいえだ。
(さすがに、やばすぎるよね。ヒナがトイレ我慢しているのを、僕に発情していると思いこむなんて)
というかこれ、字面がやばすぎる。
おそらく、第三者が直江の思考を読み取ったら、彼をこう思うに違いない。
変態野郎。
その瞬間、直江はとある事実に思い至ってしまう。
それは『類友』というワードだ。
(まさか……そもそも僕に変態の気質があって、だから周囲にやばいの集まってきたとか)
ないないないない。
あったとしても、なるべく考えてはいけない類のことだこれは。
くいくい。
くいくいくい。
と、引かれる直江の服。
見れば、ヒナがなおももじもじした様子で、直江へと言ってくる。
「お兄……ひょっとして、ヒナが漏らすの見たいの?」
「ぶ――っ」
「さすがに恥ずかしくて出来ない……でも、もしもその……お兄がその……どうしてもって――」
「トイレ! トイレ行こう! 掃除は僕に任せて!」
「お、お兄!? どうしてヒナの背中、そんなに押して――」
「ヒナに早くトイレに行って欲しいからだよ! ほら、遠慮しないで!」
と、直江はヒナをヒナの部屋から強制退去。
間髪入れずに、彼は彼女へと言う。
「あ、ちょっと甘いもの飲みたいから、帰りにホットチョコレート作ってくれない?」
「ヒナに頼み事……珍しい」
「まぁ、たまにはね。あ、ほら――ヒナって結構気を使うタイプでしょ? だから、掃除を手伝ってあげたお礼替わりってことで」
「それならわかった……ヒナ、優しいお兄のために頑張って作る。ヒナの色々いれた特製のやつ作る(ぼそぼそ)」
言って、てこてこ歩いて行くヒナ。
去り際に、小さな声で何か言っていたが、気にしない方向でいこう。
さて、なにはともあれ。
ヒナはいいタイミングで、トイレに行ってくれた。
なおかつ、ダメ押しの『ホットチョコレート』作って作戦。
(これで大分時間は稼げる――今のうちに、ヒナの部屋に盗聴器関連の何かがあるか、しっかりと探すんだ)
そして、見つけた時は瞬時に撤去する。
これは時間との勝負だ。
「いざ」
呟いたのち。
直江は自らの妹の部屋を、物色し始めるのだった。