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第百十七話 直江は帰ってみる

 時は連休最終日。

 場所は旅行先の駅――そのホーム。


 直江達がここに居る理由は簡単だ。

 日程的に、今日は旅行先から帰らないとまずいからだ。


「車で帰ればいいじゃない……電車なんて面倒ね」


 と、聞こえてくるのは綾瀬の声。

 見れば彼女、椅子に座ってスマホをポチポチしている。

 きっと、ソシャゲをしているに違いない。


「風情があっていいじゃないです。私は好きですよ、電車」


「あたしは、直江と一緒なら何でもいいぞ!」


 と、続いて聞こえてくるのは、クロと柚木の声だ。

 そんな二人は、時刻表の傍に立っている。

 なお、残り一人――ヒナはというと。


「くぅ……」


 と、寝息を立てているヒナ。

 彼女は綾瀬の隣に座り、綾瀬の肩にもたれかかっている。


 知っての通り、ヒナは朝が苦手なのだ。

 ここに来るまでも、直江が彼女をおんぶしてきた。


「むにゃ……お兄」


 と、聞こえてくるヒナの声。

 見れば彼女、綾瀬の腕を掴んできゅっと抱きしめている。

 寝言とその行動から、どんな夢を見ているのか。それを想像すると、若干頭が痛くなる。


「お兄……ずっと傍に、居て」


 と、再び聞こえてくるヒナの声。

 ここで直江、ふと思う。


(ヒナの奴。寝ぼけているとはいえ、僕以外の人にこんな無防備にくっつくのなんて、本当に成長したよね)


 昔のヒナならば。

 例え寝ぼけていたとしても、直江以外に抱き着いたりはしなかった。


 とてもいい事だ。

 けれど若干、寂しい気もする。


(ただまぁ、問題もあるんだよね)


 それはヒナと綾瀬の付き合いについてだ。

 あの二人の間のラインは、ヒナクロ、ヒナゆずとは違うのだ。


 ヒナクロ、ヒナゆず。

 このラインを健全な、ホワイトラインとすると。

 ヒナあやラインは――。


 ブラック&ピンクだ。


 凄まじい犯罪臭と、エッ!な気配に満ち溢れている。

 実際、直江は見ている。


(この旅行の間も、ヒナと綾瀬の二人。なんか、変な写真のやり取りしていたんだよね)


 パッと見た限り、あれは直江の写真だった。

 それも、肌色面積しかないやばいやつ。


「あ、直江! 電車が来たぞ!」


「ヒナさんの抱っこ準備ですよ、直江さん!」


 と、直江の思考を断ち切るように聞こえてくるのは、柚木とヒナの声だ。

 見れば、やや遠くに電車が見える。


(電車が来るのは、まだ先だと思ってたけど)


 どうやら直江。考え事に真剣すぎて、時間感覚がバカになっていたに違いない。

 なんにせよ、クロの言う通りだ。


(早くヒナをおんぶなり、抱っこなりしないと、電車に乗り遅れちゃうからね)


 そんな事を考えた後。

直江は綾瀬とヒナが座っている椅子。それがある方へと振り向き。

 衝撃的な光景を見てしまった……それは。


「ほら、起きなさいな――ヒナ」


 と、ヒナを揺すっている綾瀬。

 彼女はそのまま、ヒナへと言葉を続ける。


「早く起きないとあんた、電車に乗り遅れるわよ」


「ん……むにゃ、眠い……」


「今起きるなら、直江の動画をただであげるわ。それでも起きないつもり?」


「っ!」


 カッと、目を見開くヒナ。

 彼女は凄まじい速さで立ち上がり、綾瀬へと言う。


「お姉! ヒナ、起きた!」


「偉いわ。それでこそ、わたしの未来の妹よ」


「動画! お姉! ヒナ、早く動画欲しい!」


「安心しなさい。電車の中で、わたしの秘蔵をしっかり渡してあげるわ」


「お姉……器が大きい」


「覚えておきなさい。いい女っていうのは、約束は必ず守るものなのよ」


「覚えておく……ヒナも、いい女になりたい」


 キラキラ。

 と、尊敬といった様子の眼差しを綾瀬に向けているヒナ。


 とまぁ。

 この一連の出来事を見た結果。

 直江は思った。


(バ、バカな!? 綾瀬が優しい、だと!? いや、真に驚くべきはそこじゃない! なんせ――)


 ヒナもしっかり言う事を聞いている。

 今まで、直江の言う事以外、殆ど聞かなかったのにだ。


 特に後者のヒナ関連――これはヒナにとって、大いなる進歩だ。

 直江以外にも、よく話せる人が出来た事並みの進歩だ。


(ヒナと綾瀬のライン……案外やばくないのかもしれない)


 そうだ、そうに違いない。

 忘れがちだが、綾瀬だって普段はまともなのだ。


 正直、今の光景だけ見ると、とてもいいお姉さんやっている。

 と、直江がそんな事を考えた。

 まさにその時。


「お姉……今回の動画、前のより凄い?」


 と、聞こえてくるヒナの声。

 彼女はキラキラとした瞳で、綾瀬へと言葉を続ける。


「お兄が一人でしてるやつ……あれはとても興奮した」


「安心しなさい。わたしについてくれば、あんたの望みは全て叶うわ」


「っ……ついてく。ヒナ……お姉にずっとついていく」


「それでいいわ、ヒナ」


 と、手を差し出す綾瀬。

 そして、その手をきゅっと握りしめるヒナ。


「うん」


 なるほど。

 やはり直江は間違っていなかった。


 綾瀬とヒナの間のライン。それはとてもつもなく危険だ。

 たしかにいい影響はある。


 けれど、確実に悪影響の方が多い。

 無論、二人の仲を断ち切ろうと考えたりはしない。

 そんな事をすれば、ヒナが可哀想だ。


(綾瀬かヒナ……出来るなら、二人をまともにするんだ! あの変態性をなくせば、二人の関係は健全なものになるんだから!)


 よし!

 と、直江は決意を新たにするのだった。


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