第百十六話 壮絶なる戦い③
「お兄!」
と、聞こえてくるヒナの声。
見れば、ヒナが直江の方へと、とてとてかけてくる。
彼女は直江へと引っ付いて来ると、そのまま彼へと言ってくる。
「ヒナ……遊んできた!」
「うん、楽しかった?」
「景品沢山とれた……これ、お兄にプレゼント」
「えっと、なにこれ?」
「パンツ」
「…………」
ヒナから渡されたパンツ。
それは普通のパンツではなかった。
なぜならば。
(な、なんだこれ……大事な物を入れる場所がついてる)
要するにこのパンツ。
象の鼻の様なパーツがついているのだ。
正直、絶対に履きたくない。
「お兄に……パンツ、渡しちゃった。ヒナの選んだパンツ……お兄が履いてくれる(ぼそぼそ)」
と、聞こえてくるヒナの声。
見ればヒナさん、何やら頬を真っ赤にもじもじしていらっしゃる。
これは完全にゾーンに入ってくる。
などなど。
直江がそんな事を考えていると。
「なんですか、これ……」
と、聞こえてくるのはクロの声。
見れば、いつの間にやらやってきていたクロ。
彼女はどこかドン引きした様子の表情で、直江へと言ってくる。
「綾瀬さんと柚木さん、どうして抱き合ってるんですか?」
「いやまぁ、それは聞かないで欲しいと言うか――二人とも仲良くしてくれてるし、良かったと思ってくれると嬉しいと言うか」
「いや、全然仲良くしているようには見えませんよ、あれ。正直、狂気を感じます――まるで勇者が親の仇である魔王と、イチャイチャしてるのを見ている気分です」
「ま、まぁ否定はしないよ」
と、ここで直江、『クロに言わなけれいけない事』があることに気がついた。
それは――。
「ヒナと遊んでくれてありがとう」
「私も楽しかったので、お礼はいりませんよ」
と、言ってくるクロ。
彼女はなにやらかっこいいポーズを取ると、そのまま直江へと言ってくる。
「ヒナさんは我の配下。そして、配下の面倒を見るのは魔王である我の務め……そう、これは当然な事なのです!」
「それでもありがとう。ヒナは人見知りだから――僕と一緒に遊ぶか、一人で遊ぶかのどっちかなんだけどさ。多分、ヒナもすごい楽しかったと思うよ」
「や、やめてくださいよ! 真面目な事を言われると照れるじゃないですか!」
「照れなくていい」
と、聞こえてくるのはヒナの声。
彼女はクロをジトっとした様子で見つめながら、彼女へと言葉を続ける。
「ヒナ、クロに遊んでもらってない」
「なっ!? そんな事ないじゃないですか! ヒナさんと一緒に、敵を撃ち倒したあの日々――ヒナさんは忘れてしまったというんでか!?」
「忘れた」
「っ……まさか、これが勇者の洗脳だと言うのか! 許せない、許せませんよこれは!」
ジタバタ。
わたわたっと、元気な様子で両腕を動かすクロ。
ヒナはそんな彼女へと言う。
「遊んでもらったのはクロの方……つまり、遊んであげたのはヒナ」
「なっ!?」
「だってクロ、わーわー騒いでて子供みたいだった」
「ち、違いますよ直江さん! 私は騒いでないですよ! 騒いでないですとも! なんせ私はクールな魔王ですからね!」
と、わたわたしているクロ。
きっと、ヒナが言っていることは本当に違いない。
しかし。
「ヒナ、楽しかったみたいでよかったね」
「…………」
ぷいっとそっぽを向くヒナ。
彼女の頬はどこか、赤く染まっている様に見える。
こちらもクロ同様、図星にだったに違いない。
ヒナが楽しそうだと、直江も余計に楽しい気分になれる。
本当にクロには頭が下がる。
と、直江が考えたその時。
「ゆ、ゆ~ずき♪」
「あ、ああ、あ~やせ♪」
と、聞こえてくる綾瀬と柚木の声。
見れば、二人の顔には汗が浮かんできている。
きっと、限界がきたに違いない。
(そろそろいい時間だし、帰った方がいいかな。ヒナとクロも遊んで疲れてるだろうし)