表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

115/129

第百十五話 壮絶なる戦い②

「あ~やせ♪」


「おまえ、そのぶりぶりぶりっ子……可愛いわね」


 と、聞こえてくるのは柚木と綾瀬の声。

 そんな柚木と綾瀬は、ニコニコと楽しそうな様子で、順に言葉を続ける。


「綾瀬はあたしの団子、食べたいか?」


「食べたいわ。できればその……あんたに食べさせて欲しいわ」


「喜んで食べさせるぞ! だって、綾瀬はあたしの親友だからな!」


「柚木……っ」


「綾瀬! ほら――『あ~ん』だ!」


 言って、柚木は綾瀬の口元へと団子を差し出す。

 すると、綾瀬さんは口を開きながら柚木へと言う。


「あ~ん」


 パクリ。

 っと、綾瀬の口に収まる団子。


 もむもむ。

 もむもむもむ。


 まるでリスの様に、可愛らしく口を動かす綾瀬。

 そんな彼女はしばらくした後、ぴょこりと立ち上がる。

 そして、彼女はそのまま柚木の方へと歩いて行き。


「柚木、あんたが食べさせてくれたお団子、とても美味しかったわ――ありがとう」


「お礼なんかいらないぞ! だって、あたしは柚木にお団子食べさせられて、とっても幸せだったからだ!」


 と、ニコッと笑顔の柚木さん。

 彼女は綾瀬と同じく立ち上がり、そのまま彼女へと言う。


「そ、その……あやせぇ。あたしも出来たら……綾瀬に、その――っ」


「言わなくてもいいわ。わたしは借りは返す、出来る女だから」


「あ、綾瀬っ」


「ほら、口を開けなさいな」


 言って、綾瀬は柚木の口元へとクレープを持っていく。

 すると、柚木は大きく口を開き――。


 はむっ。


 と、クレープを食べる。

 そうしてしばらく、柚木は綾瀬へと言う。


「綾瀬! これ、とっても美味しいぞ!」


「あら、そう?」


「あたし、サラダのクレープは自分で食べたことはなかったんだ! だから、今日は綾瀬に感謝だ! おまえが居なかったら、あたしは一生サラダクレープが美味しいって、気がつくことが出来なかったんだからな!」


「言い過ぎよ、あんた。でも、そんなに褒められると悪い気分はしないわ」


 言って、柚木の頭へと手を伸ばす綾瀬。

 彼女は優しそうな表情で、そのまま――。


 なでなで。

 なでなでなで。


 と、柚木の頭を撫で始める。

 すると柚木は、猫の様に頬を緩ませながら綾瀬へと言う。


「えへへ……あたし、綾瀬に頭を撫でられるの、大好きだ!」


「わたしも好きよ、あんたの事。髪の毛はさらさらで気持ちいし、とてもいい匂いがするもの」


「に、匂いってそんな……っ! あ、あたし恥ずかしいぞ……」


「顔が真っ赤よ、柚木。でも、そんなあんたもとても可愛いわ」


「あ、綾瀬ぇ……」


「柚木」


 言って、互いに互いの手を取る柚木と綾瀬。

 そんな二人は情熱的な様子の瞳で、互いに見つめ合っている――それも近距離で。


 一見。

 二人はとても仲良しに見える。

 これはもう安心だ。


 なんて、直江は微塵も思わなかった。

 だって。


(こ、怖い……僕の一言で、ここまで仲良くし始めると――なんだか露骨すぎて)


 人間不信になりそうな類の、圧倒的な恐怖を感じる。

 それになにより、直江が本当に怖いのは。


「綾瀬、これからもあたし達は仲良しこよしの大親友だ……チラ」


「もちろんよ、柚木。あんたはわたしが心許せる数少ない存在だもの……チラ」


 と、再び聞こえてくる柚木と綾瀬の声。

 なるほど、パッと見二人は仲よさそうに見つめ合っている。

 だがしかし。


(よ、よく見ると……目が。二人の視線がちょこちょこ、僕の方に向いてきてる)


 まるで直江の表情を、余さず観察しようとしているかのように。

 というか、わかりやすく――直江が感じたままにぶっちゃけよう。


(この二人。二人で仲よさそうに会話してる様に見えるけど、実際は会話してないよね……)


 例えるなら。

 互いが出す音に適当に音を返している感じだ。

 要するに。


(二人の言葉には心が籠ってない。心のキャッチボールが出来てないんだ)


 二人の心はきっと、直江の方に全力で向いているに違いない。

 ありがたいことだ――本当に嬉しい。

 だがしかし。


「あ~やせ♪」


「ゆ~ずき♪」


 と、聞こえてくる柚木と綾瀬の声。

 二人はニコニコで笑い合っている。


 それが恐ろしい。

 だって、その笑顔には心が籠っていないのだから。

 まるで人形のような、魂を感じない空虚な笑み。

 そんな状態で、さっき言ったように。


 チラ。


 と、柚木と綾瀬は視線だけ、直江の方に向けてくるのだ。

 何度でも言う。


(怖すぎるよね!?)


 古ぼけた洋館にあるアンティークドール。

 それの首が動いて、突如見つめられてきた。

 そんな雰囲気を感じる。


 などなど。

 直江がそんな事を考えていると。


「お兄!」


 と、そんなヒナの声。

 それが、やや離れた位置から聞こえてくるのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ