第百十四話 壮絶なる戦い
結論から言おう。
格ゲーによる対決は、綾瀬が圧勝した。
しかしその直後、柚木から物言いが入ったのだ。
『おまえが得意なゲームで勝敗決めるのは狡いぞ!』
よって、二回戦としてワニ叩きゲームが行われた。
結果、柚木が圧勝した。
その次に行ったシューティングゲームは綾瀬が圧勝した。
その次に行ったバスケゲームは柚木が圧勝した。
要するに。
現在、二人の戦績は互いに二勝二敗。
完全なるドロー。
「…………」
直江は思っていた。
ドローだから、互いに引き下がってくれるのではないか。
ワンチャン、直江は解放されるのではないか……なのに。
「どうしてこうなった……」
時はバスケゲームから数分後。
場所はゲームセンター内にあるフードコート。
現在、直江はテーブル前の椅子に座っている。
「な~おえ、『あ~ん』だ!」
「直江、わたしのを先に食べなさいな」
と、順に聞こえてくる柚木と綾瀬の声。
そんな二人は現在、直江を挟むように座っている。
そして、そんな二人――柚木と綾瀬は、直江に『あ~ん』しながら言ってくる。
「直江! あたし、直江に食べて欲しいぞ! 直江のために団子、大事にとっておいたんだ……最初はおまえに貰って欲しいんだ!」
「直江、こんなぶりぶりぶりっ子のより、わたしのを先に食べなさい。ほら……あんた、クレープ好きでしょう――サラダのやつ」
「あ、あの――ちょっと」
「はい! 直江、遠慮なく食べるといいぞ!」
「直江、口を開けなさい」
ぐ、ぐいぐい。
ぐいぐいぐいぐい。
と、半ば押し付けられてくる団子とクレープ。
直江の口の周り、中々凄い事になっている。
「……ちょっ」
というか今。
団子の串と、クレープの包み紙が鼻に刺さった。
二人とも、明らかに冷静さを欠いている。
(『どっちが先に直江に食べてもらえるかゲーム』なんて、嫌な予感しかしなかったけど)
やはりこうなった
などなど、直江がそんな事を考えている間にも。
「直江……あたしの団子、食べてくれないのか? あたし寂しいぞ……」
「『直江……あたしの団子、食べてくれないのか? あたし寂しいぞ…』」
と、聞こえてくる柚木の声。
そして、それを一言一句真似する綾瀬の声。
それに対し、柚木は綾瀬を睨み付けながら言う。
「てめぇ! 気色悪い声で、あたしの真似すんじゃねぇよ!」
「あら? 声色も何もかも、あんたの真似したつもりよ?」
「あぁ?」
「もしも、わたしの声が気色悪いんだとしたら、それはあんたのぶりぶりぶりっ子が気持ち悪いってことじゃないかしら?」
「てめぇ……いい加減舐めてると潰すぞっ」
「相変わらず貧弱な語彙ね」
バチバチ。
バチバチバチ。
と、そんな火花が二人の間で散っている。
直江にはそれが見える気がした。
(っていうか、周囲の視線も気になるし。そろそろ止めるか)
もっとも。
止めて止まるような二人でないのが、困り所。
だがしかし、直江だって経験故の対処を心得てはいるのだ。
などなど。
直江はそんな事を考えた後、綾瀬と柚木へと言う。
「あ、あのさ。僕は二人に仲良くしてほしいんだけど」
「無理ね。こいつ、ぶりぶりぶりっ子でムカつくわ」
「ぶりっ子じゃねぇって言ってんだろぉが! あれはあたしの素なんだよ!」
「二人ともさ、学校では仲良くやってるよね? 世間体のためかもだけど……僕は二人のああいう姿を見てると、なんというか――とても幸せな気分になるんだよね」
「幸せな……」
「気分?」
言って、互いに顔を合わせる柚木と綾瀬。
直江はここで、そんな二人へと畳みかける。
「うん。僕は二人が仲良くしてくれたら、とても嬉しいかな」
「…………」
「…………」
柚木と綾瀬は、ありがたい事に直江を好いてくれている。
そんな彼が『仲良くしてくれたら嬉しい』と言ったのだ。
若干、二人の感情を利用するようで心が痛い――しかし、仲よくしてほしいのは本心。
(柚木と綾瀬なら、きっと僕を喜ばせるためにやってくれるはずだ)
さぁ、どうなる。
と、直江がそんな事を考えた。
その時。
「あ~やせ♪」
「おまえ、そのぶりぶりぶりっ子……可愛いわね」
そんな柚木と綾瀬の声が、聞こえてくるのだった。