第十一話 僕達私達の日常です(真)~ニャンニャン被り~③
「ところで、柚木の姉御はどうして……いったいその直江って奴のどこが、そんなに好きなんすか?」
と、柚木へ言うのは不良の一人だ。
彼はそのまま柚木へと言葉を続ける。
「いやほら……これ言うと姉御は怒ると思いますけど、直江ってやつ正直弱そうですよね? あんまり頼りにならなそうだし」
「なるほどな……おまえらも所詮はその程度ってことか」
「つまり、姉御にはあいつのいいところが見えてるってことですか?」
「バカなこと聞くなよ、当たり前だろ!」
と、遠目に見ても機嫌よさそうになる柚木。
彼女は瞳を閉じ、祈るようなポーズで続ける。
「直江はさ……小さい頃、あたしが高学年の連中に絡まれてるのを、助けてくれたんだ。あいつ、たいして強くないくせに高学年相手に必死に戦ってくれてさ……なんだか、守られてるって感じがして……とっても嬉しかった」
そんなこともあった。
たしか、小学一年生くらいのころだ。
あれは結局、直江が一方的にボコボコにされて終わった。
なんせ、相手が四人も居たのだ。
しかし。
(たしか、僕のしつこさに呆れて、結局あいつらどっか行っちゃったんだよね……その後も、柚木に手を出している様子もなかったし)
直江にはあまり自慢できるところはない。
けれど、柚木を守りきったという思い出だけは、自慢できる。
と、直江がそんなことを考えていると。
「へぇ、姉御も小さい頃は弱かったんすね。この前、他校の奴ら二十人くらいを一人で倒したのに」
と、聞こえてくる不良たちのうち一人の声。
正直、それは衝撃的な内容だった……が。
「あははははっ、勘弁しろよな~! 昔から強かったに決まってるだろ? 直江があまりにもカッコよかったから、助けられるままになっただけだって!」
と、そんな柚木の声。
彼女が続けて放つ言葉に、直江ハートブレイク。
「ちゃんと後で全員ボコしたって! 直江にしてくれた分含めて、しっかりと……あと、ついでに二度とあたし達にかかわるなって、念押しもしといたんだ!」
いやぁ、懐かしいな。
と、語り終える柚木。
…………。
………………。
……………………。
(あれこれ、ひょっとするとだけど)
直江が高学年連中に復讐されなかった理由。
柚木が陰で守ってくれたからでは?
「…………」
いや、ありがたいよ。
柚木には感謝だよ。
だけど、そこはかとなくなんだか――。
「まぁ、とにかくさ。あたしにとっての直江は、誰よりもかっこいい王子様なんだよ」
と、思考を断ち切るように聞こえてくる柚木の声。
直江は思うのだった。
(柚木がそう思ってくれてるなら……僕の自尊心なんて、どうでもいいか)