第百八話 破壊神
時はあれから数分後。
現在、直江は柚木を探していた。
「輪投げするとか言ってなかった……普通に居ないんだけど」
けれど、直江は特に焦ってはいなかった。
なんせ、彼女は昔から適当だった。
小さい頃一緒にいったお祭りの時など。
りんご飴の屋台探したら、何故かステーキ串食べてた。
そのレベルで気まぐれだ。
(そもそも、ずっと輪投げやるのも飽きるだろうしね)
きっと、他のゲームを楽しんでいるに違いない。
と、直江がそんな事を考えたその時。
「おぉおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
「すげぇ!」
「なんだこいつ……やばくね!?」
と、聞こえてくる男達の声。
見れば、パンチングマシーンの傍。
そこにガラの悪そうな男達が、群がっている。
「……うん」
すごく嫌な予感がする。
直江はゆっくりと、そちらの方へと近づいていく。
すると。
ドゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!
聞こえてくる破壊音。
同時――。
「おい、マジかよこの女!」
「すげぇ……パンチマシーンで得点カンストとか」
「あぁ、見たことねえぇよ」
「っていうか、パンチングマシーン今さ、動かなかったか?」
聞こえてくる男達の歓声。
直江はこの時、確信した。
そんな事を出来るのは、この世界に一人しかいない。
などなど。
直江はそんな事を考えた後、男達の方へと近づいていく。
すると、男達の中心――パンチングマシーンの前に居たのは。
「はっ! どーよ? これがあたしの実力だ! よかったな、てめぇら――あたしにあのまま絡まなくてよぉ!」
ご機嫌な様子の柚木さんだ。
彼女はしゅっしゅっと、シャドーボクシングしている。
そんな彼女は、周囲の男達へと言う。
「あたしは喧嘩も強いぜ? まぁ、あたしが最初にぶっ潰したてめぇらの仲間――あれを見ればわかると思うけどな……っと!」
その場でシャドーボクシングの締めとばかりに、蹴りを放つ柚木。
同時、周囲の不良からまとも歓声があがる。
そして、その内の何名かが柚木へと言う。
「姉御! うちらの頭になってくれよ!」
「あんたほど強かったら、俺達のグループは最強だぜ!」
まずい。
このままでは柚木が、旅行先でも不良のリーダーになってしまう。
と、直江は彼女を連れだすべく、彼女へと近づ――。
「残念だけど、てめぇらの頭になる気は……あ、直江!」
と、直江に気がついた様子の柚木。
彼女は彼の方へとかけてくると、そのまま言葉を続けてくるのだった。
「直江ぇ~! あたし、直江が居なくてとっても寂しかったぞ!」