第百六話 負けられない戦い
「ルールは簡単です! 景品を沢山落とした方が勝ちです!」
どうしてこうなった。
としか言えない、クロのルール設定。
時はあれから数分後。
現在、直江は射的の台につき、銃で的を狙っている最中。
コルクで出来た弾は、十個――無論、クロやヒナも同じ条件だが。
(正直、クロに負けるのは問題じゃない)
クロに負けたところで、クロの配下になるだけだ。
直江はもうクロの配下同然なので、気にするわけがない。
よって、問題は――。
「勝つ……勝ってお兄に……っ」
と、もじもじし始めるヒナ。
絶対にろくな事を考えていない。
だって、毎日早朝、直江でイタしているような奴なのだから。
(僕はヒナが家族として大好きだ。そして、かなり信頼している)
だからこそ、ヒナの思考回路には絶対の自信がある。
と、直江がそんな事を考えたその時。
「狙い撃つ」
と、ヒナは呟きながら、銃の引き金を引く。
同時、飛び出したのはコルクの銃弾。
外れろ。
外れろぉおおおおおおおおおおおおおおおおおお!
と、直江は全力でお祈りする。
だがしかし。
「っ!」
ヒナの銃弾は見事、電動こけしを落とす。
それだけではない。
「なっ――同時落し!?」
電動こけしに当たった銃弾。
それは跳ね返り、近くにあった男性が使うゴムの箱を落としたのだ。
まずい、これは非常によくない。
(ワンチャン――僕かクロが一発も外さなければ、ヒナの勝ちはありえないと思ってた)
だが、これではその前提は覆る。
なんせ、ヒナが一発の銃弾で二つ的を落とせるとしたら。
当然、十発の銃弾で、二十の的を落とせる計算になる。
勝てない。
そんなの、不可能だ。
直江は自らの心が、ぽきっと折れるのを感じ――。
「受けるがいい! 我が魔弾……至高の力、タスラム!」
と、聞こえてくるのはクロの声。
直江は折れた心で、チラリとそちらに視線を向ける。
すると見えて来たのは――。
銃弾は凄まじい速度で突き進み、的へと直撃。
けれど、彼女の魔弾はそれで終わらなかった。
弾かれた弾は別の的へと直撃、それを落とす。
さらに、最初に命中した的は銃弾に飛ばされ、それが別の的へ当たり――。
(み、三つの的を同時に落した!?)
神業だ。
そして、直江はようやく理解する。
クロはちょっとアホだから、こんなルールを提案したのではない。
クロにはヒナに勝てる自信があった。
(で、でもこれなら安心だ! クロが勝てば、僕は助かる!)
と、直江が考えたのとほぼ同時。
クロが第二射を放つ。
片目を隠し、ポーズをしっかり取り。
技名を高らかな様子で宣言しながら――。
「抹消のロストブレット!」
と、そんなクロさん銃弾。
見事に外れた。
かするとか、そういう次元ではない。
完全に違う方向に飛んでいった。
「……決まったっ!」
と、クロさん、とてもほくほくしている。
そして、直江はそれを見て悟ったのだった。
(だめだ……クロはやっぱりクロだ)
頼れるのは自分だけ。
直江は改めて決意する――この戦いに絶対に勝利すると。