第百五話 ゲーセンのスナイパー②
現在、直江は窮地に陥っていた。
その理由は簡単だ。
「直江さん、ヒナさん! ゲームをしましょう!」
と、言ってくるのはクロだ。
彼女は射的の銃をふりふり、言葉を続けてくる。
「我は魔王! 故に、強き配下を求めている! そして、配下とは勝負し……我の力を認めさせたうえで、従わせるもの!」
「クロ、言ってることが面倒……つまり、どういうこと?」
と、ジトッとした様子のヒナ。
クロはそんな彼女に対し、言葉を続ける。
「これから行うゲームで、我に負ければ――ヒナさんと直江さんには、我のいう事を聞いてもらいます! すなわち、二人は我の配下となるであろう!」
「ヒナが勝ったら?」
「くはははははっ! それでこそヒナさん! 勝負ごとは互いに失う物あってこそ! では、少しルールを変えましょう!」
と、少し悩んだ様子を見せるクロ。
彼女はその後、ポーズを決めながら再びヒナへと言う。
「勝者は敗者になんでも一つ、いう事を――」
「乗った」
と、クロの言葉を断ち切る様に言うヒナ。
この時、直江は見逃さなかった。
そして、これこそが窮地。
(うん、ヒナの奴……一瞬だけど、滅茶苦茶僕の事見たよね)
これは非常にまずい。
なんせ、ヒナは直江の事を、色々な意味で狙ってきている。
負ければ、何を要求されるかわかったものではない。
とはいえ。
ヒナは自らの感情と欲望を、直江に知られているとは思っていない。
日頃の付き合いから、それだけは確証が持てる。
(だから、露骨な事はしてこないよね。なんか、間接的な事に止めて――)
「お兄とお風呂お兄とお風呂 (ボソボソ)……お兄に身体を洗ってもらって、それで興奮したお兄にヒナは……っ」
と、なにやら身体を抱きしめ、もじもじしているヒナさん。
瞬間、直江は理解した。
ヒナはやばい。
やるときはやる奴だ。
たとえ、どんな事を犠牲にしたとしても。
(ヒナとお風呂とか、小さい頃に入ったくらいだよね)
しかもたしか、その時もヒナの様子が変だったの覚えている。
なんだか、直江の一部みながらもじもじしていたのだ。
当時はその意味がわからなかったが。
(当時でもあれだったんだ……今は絶対にまずい。ヒナは確実に暴走する――僕にはわかる。だって、僕はヒナのお兄なんだから!)
我ながら、嫌な自信を持ってしまった。
と、直江は一人ため息をつく。
とまぁ、そんな事をしていると。
「それでは、ルールを説明しますよ!」
と、ご機嫌な様子のクロ。
きっと、すでに勝ったつもりに違いない。
ということは。
クロは自分が勝てるルールを提案するに違ない。
なんせ、彼女はヒナの射的の腕前を見ているのだから。
(だったら、僕にもチャンスはある!)
とりあえず、純粋な戦い。
例えば、景品を取った数で勝負とかにさえしなければ――。
「ルールは簡単です! 景品を沢山落とした方が勝ちです!」
ズビシ。
と、クロは今日一、かっこいいポーズを決めてくるのだった。