第百四話 ゲーセンのスナイパー
パン。
パンパンパン。
パンパンパンパン。
聞こえてくるのは、ヒナが射的をしている音だ。
そして彼女、音の数だけ景品を落としていく。
「さすがヒナさんですよ! 射的の才能ありますね! 私が見込んだ、直江さんの妹だけありますよ!」
と、興奮した様子で言ってくるのはクロだ。
彼女はそのまま、直江へと言葉を続けてくる。
「決めましたよ、直江さん! ヒナさんは砲撃手にしましょう! 我が城を手に入れた暁には、ヒナさんに城の守りを任せるのだ!」
「別にいいけど……クロ、また他の人から見られてるよ?」
「はっ……う、うぅ」
と、直江の背後に隠れてくるクロ。
そして、彼女はそのまま、直江の背中にきゅっと抱き着いて来る。
こうなると、彼女はしばらく静かだ。
(とりあえず、ヒナに声かけておくか。一緒に遊ぶのが目的なんだし)
と、直江はそんな事を考えたのち、ヒナの方へと歩いて行く。
そして、直江はヒナへと声をかける。
「ヒナ、調子はどう? 僕とクロも混ぜてもらえるかな?」
「っ!」
ビクンっと、身体を跳ねさせるヒナ。
彼女はバっと銃を台に戻した後、直江へと言ってくる。
「お、お兄……えっと、おはよう!」
「え、あ……おはよう?」
「ヒナ、今日は天気がよくて楽しい!」
「???……う、うん。僕もまぁ、楽しいけど」
「よかった……お兄が楽しいと、ヒナもとっても楽しい!」
「…………」
なんだか、ヒナの様子がおかしい。
それによく見ると、いつも通りの無表情だが、やたらと冷や汗かいている。
これはなにかある。
と、直江はそんな事を考えたのち、ヒナの挙動を確認する。
すると彼女、なにやら足をちょっとずつ、何度も動かしているのだ。
(そういえばさっき、ヒナと射的フロアの担当員さんが、ゴムがどうのって言ってたな)
きっと、それと関係あるにちがいない。
直江はヒナにバレないように、彼女の後ろ――足元付近へと視線をむける。
そうして、彼はものすごく後悔した。
なぜならば。
そこにあったのは景品を入れるための籠。
問題はその中身だ。
『意中のあの人もいちころ、イケナイお薬』
『朝までハッスル! 栄養ドリンク!』
『ドキッ! お兄ちゃんの香りパンツ』
そして、大量のゴム。
そして、なにに使うか不明な電動こけし。
「お兄、どこ見てるの?」
と、聞こえてくるのは、どこか冷ややかなヒナの声。
直江は直感的に理解した――正直に答えるのはやばい。
故に、彼は彼女へと言う。
「え、あ……ほら! ヒナ、なんだか今日の靴、かわいいなって!」
「……ほんと?」
「うん! それ、僕が誕生日に買ってあげた奴だよね!?」
「この靴……ヒナの一生の宝物」
と、頬をピンクにもじもじしているヒナさん。
どうやら危機は去ったに――。
「ヒナもいつか、お兄にプレゼントする……二人で作る、二人だけの大切なもの」
と、なにやら、お腹をなでなでしているヒナ。
なるほど。
(い、いったい何のことだろうなぁ)
とりあえず、この話はもうやめよう。
と、直江はヒナへと言うのだった。
「じゃ、じゃあそろそろ、みんなで遊ぼうか!」
「ヒナ、お兄と遊ぶ!」