第百話 みんなで商店街に行ってみる
時はあれから十数分後。
場所は商店街――現在、直江達はゲームセンターへとやってきていた。
その理由は簡単だ。
「すごい……本当に射的がある」
と、無表情のヒナ。
けれど、長年一緒に住んで居る直江にはよくわかる。
(ヒナ、まだ射的する前なのに、大分喜んでくれてるな。ここに連れてきて本当によかった)
それにしても。
ゲームセンターにもかかわらず、射的があるとは本当に珍しい。
というか周囲を見れば、そこにあるのは――。
「直江! あっちにピンボールもある! 輪投げもだ!」
くいくい。
と、直江の服の裾を引っ張りながら、言ってくるのは柚木だ。
彼はそんな彼女へと言う。
「僕達が住んでる街じゃ考えられないね。あっても、コインゲームコーナーくらいだし……それも、ぶっちゃけ他のゲーセンに普通にあるしね」
「観光地だからでしょうね」
と、聞こえてくるのはクロの声。
彼女はとてとて、直江へと近づいて来ると、言葉を続けてくる。
「ここは温泉街ですし、やっぱり物珍しさを重視しているんじゃないですかね?」
「まぁたしかに。そうでもないと、旅行先でゲームセンターなんて行かないしね」
「まぁそれはともかく、直江さん! 卓球をやりましょうよ、一緒に! 我の魔力の煌めき、直江さんに見せてやろうではないか!」
「卓球って、魔力使ったっけ?」
「使いますとも!」
ズビシ!
と、ポーズを決めてくるクロ。
というか、ここに卓球出来る場所なんてあるのか。
などと、直江は考えながら周囲を見回す。
すると。
(なるほど、簡易スポーツ施設があるのか。なんかこのゲーセン、地味にすごいな)
「はぁ……くだらない」
と、直江の思考を断ち切るように聞こえてくる綾瀬の声。
彼女はつまらなそうな様子で、クロへと言葉を続ける。
「卓球はホテルでも出来るでしょ? わざわざ、このゲーセンでやる必要がある?」
「ありますとも! ここでなければ、私の力が発揮されないんですよ!」
「非効率的ね。せっかくなのだから、こういう時はここでしか出来ない事を――」
「とか言ってるくせに、綾瀬さんはアーケードゲームやりたくてうずうずしてますよね?」
「っ!」
ピクリと肩を揺らす綾瀬。
そんな彼女に対し、クロはさらに畳みかける。
「綾瀬さんほどのゲーマーが、アーケードやりたい欲を抑えられるわけがあるだろうか? ……いやない!!」
「ちょっとあんた! そんなにデカい声で、いちいち言わないで!」
わーわー。
きゃーきゃー。
珍しくも、クロと騒ぎ出す綾瀬。
なんだかんだで、彼女もこのゲーセンに来て、テンション上がっているに違いない。
それにしても。
直江はここで、とある問題点に気がついてしまう。
それは――。
(みんなやりたいゲームが、完全にバラバラだな)
ヒナは射的。
柚木はピンボールと輪投げ。
クロは卓球。
綾瀬はアーケード。
配置を見る限り、それぞれの距離はだいぶ離れている。
これだと、一緒にゲーセンきた意味がないレベルだ。
と、そんな事を考えたその時。
「ところで、直江は何をしたいんだ?」
ひょこりと、首をかしげてくるのは柚木だ。
直江はそんな彼女に対し言う。
「うーん。僕は自分から『これしたい!』っていうのないから、誰かと一緒に遊ぶ感じになるかな」
「ふ、ふーん……な、直江はそれで――だ、誰と遊ぶんだ?」
「やっぱり卓球かな。クロがやりたいことだけ、一人じゃできないやつだ――」
「射的なんてクソ……時代は卓球。お兄、ヒナも卓球する」
と、突如聞こえてきたのはヒナの声。
さらにさらに、そんな彼女に続いて聞こえてくるのは。
「あら奇遇ね、直江。わたしがやりたいと、本心で思っていた事と同じだわ」
「あ、あたしも! あたしも卓球やりたい」
そんな綾瀬と柚木の声だ。
うん。
みんな、さっきと言ってること違うね!
けれど、つっこんだら面倒な事になるのは明らか。
故に、直江が黙っていると。
「言ってること変えないでくださいよ! 卓球は二人いれば十分なんですよ! 私と直江さんの時間を――もごっ!?」
「クロ……うるさい」
と、クロの口を塞ぎながら言ってくるのはヒナだ。
彼女はそのまま、無表情で言葉を続けてくるのだった。
「はやく卓球……いこ?」
作者、切痔手術のためしばらく入院。
申し訳ありません




