プロローグ
まっすぐ伸びる一本の道を彷徨う形で俺はただただ歩き続けていた。
左側は暗い雰囲気を漂わせた壁になっており、右側には無数の扉が並んでいる。だが、扉は全く開く気配を見せず、こちらから開くこともできない。だから俺が進むべきは前へと繋がる道だけだ。
もうどれくらいの期間、この景色を見てきたのだろうか。そう思わされるくらいには、何の変哲も無いこの空間を見てきた。変わるところといえば、扉と扉の間に稀に現れる階段といったところだ。おそらく、この空間は階層的な仕組みになっているのだろう。
数年間、食事は愚か、ろくに水分もとっていない。
過酷な状況でも生き続けていられるのはこの世界が現実離れした世界だからだろう。
淡々と続く道を今日も俺は淡々と歩いていく。
なぜこうなってしまったのか、全く記憶にはない。
もしかすると人は生まれてからずっとこの迷宮を彷徨い歩いているのではないかと思ってしまう。
いつになったら、この迷宮の終着点へとたどり着くことができるのだろうか。
そもそも、この迷宮の終着点とは何なのだろうか。
二つの疑問に対し答えなど得ることはできないだろう。だから俺の足は止めることをしなかった。歩くことで何かヒントになるものを見つけることができると思ったから。
ずっと、歩いていくが今回もいつもと同じく特に何かが起きるというわけではなかった。
今日もこれで終わりか。
何も起きないことへの不満と安堵の両方が襲いかかってくる。一体自分は何を望んでいるのだろうか。
刹那、前にある無数の扉の一つが僅かながら空いているのが見えた。
左側にある暗い雰囲気の壁から黒い液体、あるいは気体のようなものが扉の隙間から中へと入り込んでいる。
今までに起こったことのない変化に思わず、目を見開く。
少し小走りになり、その扉の前で立ち止まる。
明らかに今まで歩いてきた道には見られなかった現象だった。
だからこそ、これこそが俺が探していたヒントになるものでは無いかと思わされた。
この先に何かがある。
気がつけば、手が扉へと触れようとしていた。自身の行動に身を委ね、中へと入っていく。
もしかするとこの中に探し求めていたものがあるのかもしれない。
存在するのかさえわからない根拠のない大切なものが。