大地という男
〜初投稿頑張ります〜
石にかじりついてでも生きたいとは思わない。
死ぬくらいなら生きていたい、まぁそんなとこだ。
それに、かじりついてくるのはヤツらのほうだ。
田舎と言えば誰しも二番目か三番目には浮かぶであろう片田舎。
そんな都会とは決して言えない地方都市の、山沿いに建つ築四十年の一軒家。その中にあるのは、不気味なほど静寂に包まれた真っ暗な部屋。
正確には、タコの足の数を超えて酷使されている電源タップの、オレンジ色の薄っすらとした灯りだけは辛うじてある部屋。
その微弱な光源がぼんやりと木製のテーブルの底を照らしているこの部屋で、今が昼なのか夜なのかすら知らぬ男が独り、いつ寝たのかも分からない眠りから目を覚ます。
男はゆっくりと頭上のシーリングライトのリモコンを手に取り、慣れた手つきで天井へ向け明かりを灯す。
闇が一掃されて見えたのは、窓という窓にスタイロフォームがハメ込んであり、更にその上からアルミシートで窓枠ごと覆うという、病的とも思える遮光への執念。
その男は、部屋の奥隅のヘタヘタにくたびれたマットレスの上でゆっくりと起き上がると、シーリングライトの光量を少し落とし、気の抜けたコーラが残ったマグカップの口を、無造作に指で拭ってから一口で飲み干す。
その男の名は中村大地。
どこにでもいる様な、どこにもいない様な。
どこにいてもいないのと同じ様な。
どこにいてもどこにもいないでほしいと思われる様な。
そんな空気の様な、いや、澱んだ空気の様な男。
大地はゆっくりと仰向けに倒れ、もう一度このまま寝てしまおうかと考えるが、どうにも満たされない喉の渇きに突き動かされ、一階の台所へと向かうことにした。
手すりの無い急な階段を静かに降りると、二階とは違うキリっと刺すような冷気が顔を襲う。
さっさと飲み物を補充して上に戻ろう。
そう思い、取っ手が手垢で黄ばんだ冷蔵庫を開けるが、中にあるのはチューブ入りのからし、蓋の無いポン酢、そして納豆のタレの小袋が数個散らばっているだけで、大地の喉の渇きを癒やすようなものは何一つ無かった。
昨日も見たっけか。
そう、大地は昨日の寝る前に冷蔵庫を開け、飲み物が何もないのでコーラを拾いに外出したことをすっかり忘れていた。
用事でもない限り外に出ない、それが大地の生き方だ。
また拾いに行くか、潰れていない缶はまだあったはずだ。
胸ポケットに入れてある、ガチャガチャから出てきそうなほど貧相な腕時計に目をやり、今が昼の二時過ぎなことを確認すると、大地は出かける支度をするために二階の部屋へと戻っていった。