第6話 襲撃 -Enemy-
何度だって言うが、この世に絶対などない。
どんなに手を打っても、打ち足りない事だってある。
どんな手品を使ったか知らないが警戒網を抜けて、敵が攻撃をしかけてきた。
作業員たちは無事だが、前線に展開していた戦車部隊の一角が消し飛んでいた事から余程に力自慢の個体が混じっていたようだ。
予備のプラズマライフルを二挺とレールガンを手に、僕らは夜空の戦場に飛び出した。
「まったく、これ絶対うちの部隊が文句言われる奴だよ!」
既にE.L.Fの魔法少女が迎撃に出て、襲撃してきた敵を撃滅している中、ミヅキと共に後衛として参戦する。
ミヅキがホルダーから「式神」を展開していく。
白い紙のヒトガタがまるで渡り鳥の群の様に前線に向かって飛んでいく。
「索敵はミヅキにまかせる、僕らはこれ以上基地に被害が及ばない様に抜けてきた敵を確実に仕留めるぞ」
状況確認、配備されていた戦車部隊に中規模損害、施設は防護シールドで無事、E.L.F部隊の魔法少女4人が中規模の群と交戦中、日本政府部隊は現在急ぎでこちらに戻ってきて挟み撃ちにする形。
交戦中の魔法少女達の映像データを転送、特に敵の外見に異常はない、強いて言うなら小型種が多いぐらいか。
おかしい、大型の敵でもない限り複数の戦車を纏めて吹き飛ばす程の攻撃などできない筈。
意識を目の前の戦場に戻すと、式神が縦横無尽に飛びまわり、操作網が張り巡らされている。
メデューサの体の大半は水を含んだゼラチンの様なものと、電磁シールドの様なモノ、そしてコアと呼ばれる材質不明の結晶で構成された「実体」。
灰色に汚れた雪が高く積もる大地を見下ろす。
妙だ。
「ミヅキさん!下に積もってる雪を調べてください!」
「わかったよ、雪ね……!」
ミヅキが操作する式神が次々と地面に向けて降下し、雪に突き刺さっていく。
すると丘の様に高く積もっていた雪に刺さった式神が爆発した。
「ウソ!?何アレ!?」
「スバル!」
「はい!」
ミヅキの驚きの声に賛同したい所だが僕らは即座にレールガンを「ソレ」に向けて引き金を引く。
高エネルギーの弾体がぶつかり、周囲の雪を溶かした蒸気と衝撃で舞い上がった雪が煌く白い煙となる。
その中から現れたのは、青白く帯電する「白」の巨大な個体、そして抱え込まれる様な形で付属する小型種の群。
「特異個体……!雪に擬態してたからここまで近づいて来ても分からなかった!」
まずい、これが一体ならまだ問題ないが、他にもいるかもしれない。
「ミヅキさんは続けて索敵を!これの相手は私達がやります!」
レールガンを白い個体に対して向けて、再び引き金を引く。
だが、敵との衝突の瞬間に弾体が衝撃と共に爆ぜた。
「何!?」
「シールド……!それも!」
スパークを散らし、平然とその場に浮かぶ新種と小型の群、思い浮かぶのは……。
「群でシールドを作ったのか……!」
メデューサは小型種から大型種まで強弱こそあれシールドを作る事はできる、だがそれはあくまで旧世代の戦車の砲弾や、重機関銃、対空砲なんかを防ぐ程度のモノ、レールガンやプラズマキャノンを防ぐ程の防御力はない。
だがこの「群」はそのシールドを重ねて強固なモノにしている。
擬態を暴いた際の攻撃もこれで防いだのか。
「やはり、学習して……適応している!」
反撃とばかりに放たれてきた小型種の腐食光線を回避し、敵のデータを分析する。
レールガンをも防ぐ強力な「群体障壁」による防御、突破するには今の手持ち火力では不足だ。
「スバル!少し手を考える!その間を持たせろ!」
「わかりました!」
回避行動をスバルに一任し、僕はリアルタイムで魔術式を構築する。
あれだけ強力な防御だ、それなりにエネルギーも使うはず。
そう長い時間は出し続けられまい。
ぶっつけ本番、これが初の試みだが、スバルと僕が二人で一人であるのなら。
できる筈だ。
「やるぞスバル、波長を合わせろ!」
「わかりました、ハフリ。あなたを信じます」
手にしたレールガンを再び構える、内部の制御装置・送電機構、銃身に魔術による接続を確立する。
銃身をバリアによりコーティング、パワーアシストと供給電力へ出力を集中。
「どっちしろ始末書モノだな」
「でしょうね」
強烈なスパークを放つ銃口を敵に向け、トリガーを引く、放たれるのは轟音、そして光の矢となった銃弾。
いつもと違うのは、それが3発続けて発射される事。
当然、仕様外の3点バーストに銃身は炸裂し、僕らは衝撃と反動で真後ろに下がるが、どうやら策は成功した様だ。
「やりましたね」
「ああ、だがまだ終わりじゃない」
コアどころか上半分丸ごと消し飛んだ大型個体が崩れ落ち、残るのは小型の群。
銃身が吹き飛び、ジェネレーターから火を噴いたレールガンを捨て、二挺のプラズマライフルに持ち替える。
小型種はそれこそ人間と変わらないサイズ、やろうと思えば歩兵の火器でもなんとかなる程度。
エネルギーラインが確立されたプラズマライフル、カートリッジからプラズマがチャージされているのを確認し、トリガーを引く。
どうやら群体障壁はあの大型個体がいなければ使えないようだ、一撃でコアごと一匹爆ぜた。
群は率いる脳を失って瓦解、あちらこちらに散らばるが、こいつらの飛行速度では逃げ切るのは無理だ。
ボーナスバルーンの如く、次々と敵を撃ち落しながら、周囲を確認する。
上空では変わらずミヅキが式神の操作を行っている、戦闘をしているかどうかまでわからないが、大丈夫そうだ。
だが……まただ、またアレが見ている。
「……バロール……」
「ミヅキはどうでもいい、か」
彼女を無視して、僕らだけを見ている、いつもの様に観察している。
「だが今は、片付けるだけだ」
特攻まがいの突進を行ってきた小型を撃ち落し、残敵掃討を完了する。
僕の側のタブレットで戦況を確認する、他の部隊も戦闘を終えて、合流しはじめている。
だが妙だ、妙に静かだ。
灰色の雲に覆われた空を見上げながらミヅキと合流する。
「どうだ、敵は見つかったか」
「敵は見つかりましたか、ミヅキさん」
「それが、全然。さっきの群だけ、とっても変だね」
敵も馬鹿じゃない、いくら自信があったのだとしても特異個体の群がこんな簡単に片付く訳がない。
「……夜火、逃げる準備をして。雲の上に行った式神の繋がりが一気に切れた。部隊には迂回しての帰還を指示をする」
ミヅキの報告に、僕らは空を見上げる。
雲が渦を巻き、球となる。
まるで卵から孵化する様に、雲が解けていく。
その中から現れたのは、これまでに見た事のない程の巨体。
そして何よりも異様だったのは巨大な「女性型の上半身」が傘の上に生えていた事。
「綺麗……」
そのシルエットはまるで女神か、それとも女王か、神性ささえも感じさせる姿にスバルが思わずそう漏らした。
僕はアレが何か分かった。
あれが僕らをずっと見ていた、特異個体。
だが、何故今になって姿を現した。
敵意も持たないまま、現れたのは何故だ?
それに応える様に、奴が右手を掲げ、僕らはいつでも動ける様に構えを取る。
闇としか表現できない漆黒の球体、それがアレの右手に生成される。
その色は知っている、腐食光線の色だ。
しかも、今までに見た事のないサイズまで膨れ上がっていく。
「まずいまずい逃げろ逃げろ!!」
ミヅキの声に僕らは我を取り戻し、即座に撤退を開始する。
だが、奴は闇の球体を投げた。
その先、は僕らが守るべき基地だった。
「ッー!!!」
スバルが声にならない悲鳴をあげたと同時に、防衛対象は、跡形もなく消えてなくなった。
振り返ると、奴は満足したのか再び雲を纏い、姿を消した。
任務は失敗だ、あんなもの、どうしろというのだ。